「小説世界のロビンソン」に言及されていたが、小林信彦は若い頃の一時期、太宰治に傾倒したらしい。作品としては中期から後期(戦中まで)にかけての時代のものを好んだようだが、しかし小林信彦の自伝的要素が強い小説群を読むと、太宰との共通点が多いというか、ある意味よく似た出自なのだなと思う。かつては隆盛を極めたが没落した(あるいは自分がドロップアウトした)裕福な家の出身であること、ちやほやされた幼少期と世間の風を受けた成年期での、体験のギャップが激しいこと、うしなわれた美しさとか価値への郷愁の思いが強いこと、やはり心のどこかで「家」を強く誇りに思っていること、など。

自分の性格や志向をやや露悪的に書いて、虚構の世界に陰影を付けようとする感じとか、自分の想像をあらかじめ置いてから他人を登場させて、予想との落差から世の中的なものを描き出そうとするところとかも、(そういう小説がある一方で、割りきったような娯楽(戯作)小説が存在するところも)似てる気がする。

(そして両作家の作品ともに「落語」の影響が息づいている…)