宇能鴻一郎「姫君を喰う話 宇能鴻一郎傑作短編集」より<鯨神>を読んだ。一九六一年発表の芥川賞受賞作。鯨と人間との闘い。「生きるとは死ぬことと見つけたり」を、地で行く感じの主人公を中心に、方言と直進的語りで始めから終わりまでぐいぐい盛り立てていき、闘いの果て、生も根も尽きて生死の境を漂いつつ、自他が融解したかのようになって境地に達するみたいな、こういう「闘い」の物語は、それこそ漫画などに高品質な事例が、たくさんあるのかもしれないと思う。

私は相手に殺される。その死が私の生を価値づける。闘うことが価値であり、死に行く私の生に私は満足する。また私は相手を殺す。相手はその死に対して己が生に価値を見出す。殺される相手は己が生を誇りつつ死ぬ。だから闘う私と相手は、共に価値ある生を生きて死んだことになる。

「いつか相手に殺されることを待ち望みながら相手を殺す、そのような交歓がありうる」というテーマの変奏は、さまざまな形式で今後も続くことだろう。