最初のCD(コンパクトディスク)の発売は1982年だそうだ。僕が11歳のときである。僕が、はじめてCDプレイヤーを買ったのはいつの事であったかというと、82年は、まだまだ全然LPだった。多分4〜5年後というところだろう。たしかビートルズのアルバムは早い段階で既にCD化されて地方のレコード屋の店頭まで普及しており、LPでは聴こえなかった音が聴こえる。とか、LPと較べて何か冷たい感じがする。とか、そんな事をよく言われていた。
当時、僕や周辺の中高生にとってもっとも親しい音楽視聴システムはラジカセないしミニコンポやシステムコンポーネントステレオとカセットテープであった。あとはレンタルレコード屋に通って、友達から借りたカセットをコピーしたくてダブルデッキがほしいと思う日々であった。…しかし、それでもいつかウチにもCDの再生環境がやってきたのだろう。それでたしか、始めて買ったCDはジョン・レノンのimagineである。ついに家に新たなハードウェアがやってきて、とりあえず新しいソフトウェアを何でも良いから買う。という、今を生きる人が多かれ少なかれやる購買パターンの、僕にとってこれが初体験となる
で、買ってきて早速そのアルバムを聴いてみて印象的だったのはなんと言っても2曲目「Crippled Inside」と10曲目「Oh Yoko!」であった。なぜか!・・・というとどちらもアップテンポで軽快でパーカッシブなリズムを持っている曲で、これがデジタルサウンドとして再生されたときの、硬質な乾いた響きが、おお!これがまさにCDの音質なのだな。という風に感じたからである。
それは「いい音だ!」という話なのだが、しかし「いい音」って何?とも感じるような音である。少なくともこういう音を、それまで一度も聴いた事がないという驚きの新鮮さがあり、そういう非常に非現実的なリズムの連続音であって、大げさに言えばその音のものすごいクリアでいながらばさばさと非現実的に分断されたような感覚に、唐突なようだがはじめて「テクノ」感を感じたと言える。それはハイクオリティであるがゆえに、却って現実離れした異様な何かとなる。(所謂ドンシャリサウンドとか、極端にボトムアップしたビートとかは、再生に伴う振動にも比較的影響を受けず安定した再生を可能にするCDというテクノロジーが可能にした側面はなきにしもあらずだ。)
テクノは常に、テクノロジーが具現化しようとする世界の、本来とても恥ずかしい、人のまなざしから庇い、隠しておかねばならない刃こぼれ的残滓というか、世界の何物とも調和しないエラーノイズとして立ち現れるのであり、このジョンレノンのあまりにも有名な楽曲でさえ、たかだか再生環境を変えただけなのにも関わらず、そのことを隠す事はできない。