「California Here I Come」Bill Evans


California Here I Come (Reis) (Dig)


ビル・エヴァンスの左手は本当にスカスカだし、右手も気まぐれで行き当たりばったりのくせに持続力がない。…これは遊びでやってる事なんです。仕事じゃないからいつやめてもいいし、いつはじめてもいいんです。だからどちらの手の動きも、あるべき音をところどころ欠落させて、また気まぐれに滑り出して、あやふやにして、場合によっては取り返しのつかない程の隙間を空けてしまい、でもかまわず唐突に唄いだして、ふと気づいて、またやめて、しばらくぼやっと考えて…というような感じ。それら全体の責任を取る気があるのかないのかもはっきりしない。それで却って、失われた全体のイメージがより強く予感せられて、それへの切ない郷愁を誘われるのだが、でもはじめからそれが成功すると思っていましたか?その保証などどこにもないでしょう?いや、この曲は元々、誰でも知ってるような、皆からずいぶん親しまれたミュージカルの歌曲なのだから、その曲の元々の可憐なかわいらしさがありますから、それだけが頼りです。それだけを元手にしてやってるんです。だからそんな大した事ではないんですよ。でも、そんなやり方だと独りよがりな印象になったりはしませんかね?うーん、まあでも私の中でうきうきするような、胸がわくわくするような何かに向けてやっているうちは、それが皆さんにも伝わればいいなと思えるので、そこは自分を信じてがんばるしかないですね。まあでも実際、わたしたちの時代以降は聴いて下さる人もみんな、やってる本人の身になって聴かないとダメな時代になったのかもしれませんけどね。ですからそこはちょっと、皆さんもピアノを弾いてる私になった気持ちで、聴いていただければと思います。