speedo!!


オリンピックに出る日本の競泳選手が、国産じゃなくて外国メーカーの水着を着ようか迷ってるというニュースを見た。もともと、日本の競泳選手はそれぞれ複数の国産水着メーカー(ミズノ、アシックス、デサント)と契約してるので、特に何も考えず指定水着を着る筈だったらしいのだが、どうも外国メーカー製による水着(スピード)の水着が圧倒的に高性能らしく、それを着るべきかどうしようかで迷ってるらしい。一流の選手とか所属企業とか協賛企業とかその周辺の諸々とか、そういうのって、もっと利権やなんかでがんじがらめになってる魑魅魍魎が跋扈する系のものすごい世界だと思ってたので、今回の話で僕が思ってるよりもずいぶん牧歌的な雰囲気なんだなあと意外に思った。(そんな悩めるほどの選択の自由、というか選択の余地があるのか、というのが意外だった)


たとえばF1なら、チームがあって、ドライバーがいて、技術製造部門があって、タイヤメーカーがある。その他もっと色々あるけど、チーム運営と車体製造の母体が一緒(自動車メーカー)というパターンは多いが、タイヤまで自前で作ってるチームはない。現在はタイヤ製造と供給はブリジストン社が請け負っていて、何年か前はミシュラン社もいたし、グッドイヤーとかもいた。それらのタイヤメーカーは当然競合してるわけで、だからF1というのはチーム間の戦いでもあり、ドライバー間の戦いでもあり、タイヤメーカー間の戦いでもある。人間同士の戦いと技術開発の戦いがブレンドされいて複雑に混ざり合う。勝因分析とかでも一人のヒーローとかひとつの飛び抜けた技術とかに理由を求めづらいというか、なかなか納得しやすいものにはならない。これはF1では昔からの構図である。広告とかだってものすごい。ドライバーのスーツにワンポイントのっかってるロゴだってすごい価格の広告費だろう。


だからきっと水泳とかの、競泳の世界でも、さすがにオリンピックとか世界選手権レベルなら当然、選手同士の戦いでもあるだろうし、国家間の戦いでもあるだろうし、チーム間(コーチングスタッフとかマネージメントとかの)戦いもあるだろうし、同時に周辺メーカー間の技術開発における戦いもあるんだろう…と、特に根拠もなく思っていた。でもそれほどでもないのだなあ。国内メーカーもそんな気合い入れた開発競争をやってるような空気ではないらしい。(まあそんな事にカネ使っても企業の方にメリットないのか…そう考えると自動車産業業界っていうのはもうピークは過ぎてる癖に、世界的に見てもまだまだ子供っぽいところのある妙に熱い業界なのだろうなあと思う。)


しかし近代スポーツというのは、皆が平等にスタートラインに立ち、フェアに計測されて結果が精査される事が前提なのだけど、だからこそ、現実はそこに至るまでに異常なまでの前準備があって、カネとか名誉とか自尊心とかの嵐が吹き荒れて、資本金100億円の大企業も一個人も同じようにてんてこ舞いで、買収とか贈賄とか引き抜きとか抜け駆けとか色仕掛けとかもガンガンやって、挙げ句、すさまじいシェイプアップ&ビルドの果てみたいな身体が並ぶ事で、もうほとんど平等とかフェアとか、そういう概念自体が自壊するギリギリな感じが醍醐味なのだと思う。なので、そういう醍醐味を損ねるような事では駄目で、今回の水着騒動は、それに水を差した感がなきにしもあらずだ。なので、僕が今回ここでは苦言を呈したいと思いますが、日本人選手も今回の件においては、さすがにいくら外国の、スピード社の水着が高性能だったとしても、簡単にそっちに色目を使うような事ではいけないと思うのである。ましてや選手も連盟も一様に「(速い水着には)選手みんなが興味がある」とか「五輪には人生がかかっている。0.1秒でも速い水着を着たい」とか「選手には要望する水着を着させてあげたい」とか、これらの発言はやや格好悪いではないか?と言いたいのである。武士は喰わねど高楊枝の心意気も、まだまだ忘れてはいけないと思う。要するに、もう少しカッコつけたらどうかね?と申し上げたいのだ。たとえばこんな風に軽くインタビューに応えてみたら如何か??


「確かにライバル陣営の水着は悪くない仕上がりらしいけどあまり気にしてないね。僕自身のコンディションも上々だし、チームも日々努力しているんだ。我々の努力の方向性自体が間違っているとは思ってないよ。ちなみに、日々技術を駆使して開発を重ねてくれてるミズノ社が次回の大会までに新しく投入予定のモデルは、僕のここ数ヶ月の身体特性を最新ロジックで数値化した、最上の成果として作られたもので、いくらライバル陣営の水着がすごくたって、それを今更変えたくても単純に履き変えられるものではない。現代のスポーツというのは、皆が思うほど単純なものじゃないんだ。すべての歯車が精巧に動いていて、ほんの些細なズレやミスが命取りになるような、極めてデリケートな世界なのさ!でも僕としてはとにかく、チームとメーカーを信じるだけだよ。そして当日にベストを尽くす事だけ。。何、大丈夫。僕自身は楽観的だ。彼らの今までの仕事ぶりに全幅の信頼を置いているからね。…そう、我々がやってることはもはや、人間の意志と身体とテクノロジーが渾然となった、僕の肉体とスタッフの技術と、そういったチーム全体の総力を結集した、最終総力戦なんだよ!」


こういうセリフをこれ見よがしの作り笑顔で語るくらいの気持ちが大事であり、それでこそ現代のアスリートであると思うがいかがか。