願望の店


仕事の帰りに一杯だけでいいから呑みたいのだけど、あんまり本格的なバーとかは気後れがするしカウンターで独りでカッコつけてるみたいな状況になるのも嫌だし何より店の従業員と話をしなきゃならない雰囲気になるのが億劫でめんどくさい。でもそういう面倒が全然ない店というのも世間にはいっぱいあって、例えばファミレスとかチェーン店系の店ならほぼ希望通りほったらかしで黙って呑んで帰れるのだが、でもそれだと逆になんか味気ないというか微妙に自分が寂しい感じに思えて情けなくなるというか、それはそれで、なんとなく嫌なので、そういうのの、まあ良い按配に折衷的な、ほどよいバランスの、恥ずかしくないような、気後れもせず気兼ねもなく力抜いて楽できてかつ奥底では自尊心も維持できるという…、そういう店を知ってれば良いのだけど知らない。っていうか、実のところおそらくこんなムシの良い話はなくてそういう勝手な発想の、か弱い自尊心の恥ずかしさを自覚しないといけません。っていうかたぶん、そんな願望どんぴしゃの店が現実にあったら逆に恥ずかしくていたたまれない気分になりそう。考えてみれば、願望をかなえる系のサービスって、絶対に願望が充足される事はなくて、絵に描いた餅みたいな当初のイメージから激しくとんでもなくズレていって、気付けば横たわった自分の頬にあたる冷たい地べたの現実味だけが残滓として与えられるようなもので、でも、むしろそのようにズレるからこそ、世界は複雑でよろこびに満ちており救いもあるのだとも云えよう。行った事ないからよく知らないけどおそらく性風俗産業なんかもそういうズレにまみれて、最終的には地べたをなめて、そしてはじめてそこに救いが見出されるのだろう。いやむしろそこから立ち上がってくるような商売なのだろう。。というか、まあ僕なんかはとっととうちに帰ってせいぜい缶チューハイのリンゴのお酒でもなめてなさいってこった。