上田和彦氏の作品をはじめて観た。キャンバス地の白が鮮やかに目を刺すような余白の多くのこる画面もあれば、画面全体が何層ものタッチで覆われ、激しく混食され混濁に行き着いている画面もある。ひとつひとつのタッチは、太い筆の無骨な刷毛目として、木訥とした感じでぐいっと迷い無く勢いよく引かれており、うねりのような、垂れ下がるかのような、太い紐を細切れにして画面上にばらまいているかのような様相で、もちろん人が手に持った絵筆で描いたという事だけが感じさせるある種の不安定さや素朴さもある。そのようなタッチが、単独で跳ね上がったり、隣り合う要素とぶつかり合って、ところどころ浸食したりされたり、刷毛目にさからってせめぎ合い、筆の走りによって混ざり合い、濁り合い、反発しあう。
色彩は、たとえば暗緑系や青系の鈍く沈もうとする色と、赤や黄色の、クリムソンレーキとかレモンイエローとかの印象にも似た、やや青みがかった、他への浸透力の強い色との絡まり合いとしてあって、全体の印象として、人工的な発光感があるというか、まあ適当な表現かわからないが、いわゆる色温度が若干高いような、そんな印象を受ける。そこが色彩のいわば暖か味や柔らか味、とか、ペインタリーな奔放さとか溢れて吹きこぼれるような過剰さみたいなもの、とか、何かを含み込もうとするような味わいを減衰させ、そのかわりに行われているすべてを明確で金属的に鋭くあらわすように感じられる。神経的な色彩と躍動的なタッチとが絶妙に調整された、独自なバランスを有している作品だと思った。