潜水


あと5メートル進んだら、すぐに浮上して呼吸したい、と、さっきからずーっと思っている。そう思いながら、延々と潜水を続けて、ついに25メートルの壁まで来てしまい、そのまま浮上せずに水中でターンしてしまい、なおも潜水のまま進んでいる。呼吸を止めているのが、さすがにもう限界で、胸と頭が破裂しそうなほどの苦痛を溜め込んでいて、顔全体が苦しみの発熱で沸騰しそうに熱く、手足の感覚はなく、胸の真ん中に嵌っているボールのような心臓が、激しくばくばくと動いており、その鼓動だけが妙に生き物のなまめかしさで動悸を打って身体全体を振動させている。…その後、ついに気が遠くなって、意識をなくした、と思われるくらいの、苦痛の絶頂が襲い掛かってきて、その峠を越えてしまって、その後、かろうじて、山頂から八合目あたりにまで若干後退したような、緊張に包まれていた身体のかすかな弛緩をおぼえ、まだその先に、数メートルかそこら進めるほどの、寄せ集めたようななけなしの余力を、自らのうちに発見してしまう。その発見に、かすかな喜びと希望が閉ざされた悲しみとやり場のない怒りが混ざり合う。このまま、まだ今の状態を維持するという、数秒前まで絶対にありえなかったはずの、最悪の選択肢が、妙にもっともらしく、如何にも現実的な様相で目の前に見えてくる。その展開と、そこに至ってしまう自分自身に、同時に絶望をおぼえもするのだが、そこには最悪な意味での安堵感らしきものさえ混じっているのだからますます情けない気持ちになる。