30分


朝の七時頃、線路にお客様が立ち入ったため、安全確認を行った関係で、ダイヤが大幅に乱れている。この電車も定刻より八分少々遅れて駅を発車している。電車が遅れていると行っても、いつもの時間に、いつもの駅のホームに着いたら、いつもとは違う電車がちょっとずれたタイミングで入ってくるだけで、来た電車に乗ってしまうのはいつものこと。ただし乗ってからが、当の電車が、なかなか前に進んでくれないのが困る。前の車両がつかえており、車両感覚調整のため、たびたび停車や時間調整等させていただきます関係上、お急ぎのお客様には大変ご迷惑をおかけいたしますが、なにとぞご了承いただきますようお願いいたしますというわけだ。そう、この電車はまもなくドアを閉めます、発車します、という段階で、無理なご乗車はおやめください。次の電車をお待ち下さい。お荷物引いて下さい。閉まりマース!というわけだ。緩慢なスピードで、電車は動いては止まり、動いては止まる。いつもの所要時間、日比谷までの30分はそれで、遅くとも八時半を過ぎた頃には、だらしなく弛緩してしまい、あいまいに膨らんでしまった。まるでゴム紐が伸びたような、旬の過ぎて鮮度の落ちた、いまさら目方を量る気にもならないような、誰からも興味をもたれないようなものへと成り果ててしまった。