眠り

朝、電車の座席で、うとうとと居眠りしていた。よくわからない夢を見ていた。内容はすっかり忘れてしまったのだが、何事かに夢中になっている自分がいて、傍らには仕事の相手なのか昔の知り合いなのか、よくわからない誰かがいた。あるのっぴきならぬ事情で、やや悲壮な思いで、しかしやっていることはまるでゲームのようにかすかな楽しさも含んでいるようだった。それを何しろ躍起になって、しかしそれだけはっきりとした夢の世界に居ながら、意識はほとんど眼をさます直前の場所を、ゆらゆらとたゆたっているのだった。電車が駅に着くたびに目が覚めて、ふと時刻を見ると、そのとき八時十一分だった。直後ふたたび眠りにおちて、また夢を見ていた。見ている世界に、比較的しっかりしたリアルな手触りが細部にまであったがために、その時だけ有効で切実な真剣さをもって、自分はその時間を生きていた。やがて電車が目的地に到着したので、僕は目覚めて席を立った。一瞬、とんでもなく長時間眠ってしまったのではないか、目的地をとっくに通り越してしまったのではないかと焦ったのだが、駅はいつもの駅だったし、到着時刻もいつも通りの八時三〇分で、時刻を確認してからまだ二十分弱しか経ってないとは、ちょっと信じられない。あれらの経験すべてが、たった二十分で起きた出来事だというのか。だとしたら、時間の物量的な感覚自体が、あてにならないものではないか。積み重なった時間の厚みというのは、実際は存在しないのかもしれない。しかもどんな夢だったかをすっかり忘れてしまうって、これでは何もあてにならない。