ベーコンを竹橋の美術館で観たのは、なんとなく5月か、少なくとも4月くらいのことかと思っていたら、なんと3月10日のことだった。3月って、まだ冬じゃん。とんでもないな。映画の始まったばかりの箇所と、終盤の箇所しかおぼえてなくて、その間の時間は、いったいどこへ吹っ飛んでしまったのか。1月から3月、4月から7月、それぞれ、なんのつながりもないような気がする。


3月のメモより


はじめての人に出会うときはいつもまず、その肩幅をみる。頭部を乗せた台座としてのサイズを測る。自分の着ているコートの、まず、こじんまりとした台座に、その範囲内での出来事が起こった。自転車が正面から来た。次に前を見たら、もう目と鼻の先にいた。スカートの、髪の長い、自分にめり込んだもう一つの、行き過ぎようとするもの。空気がふわっとして宙に浮かぶような、なにしろ歩いていても、血圧が低くて、そこに匂いが、顔を突き抜けて上半身いっぱいにおちて、外側から見たとき、抱き合うような格好になっていた。内面の無いような顔をしていた。そういう表情があるのだ。かすれて、ぶれたような、肝心の箇所が曇っているような、あさっての方角を見ながら、こちらへ向かってくる幽霊からうける印象だ。僕は追われるのではなく、追いかけながらどす黒い声で絶叫したことがあった。相手を驚かせようと思って叫んだら、まるで自分が恐怖を感じているような声で、それがさらに、自分を焚きつけたようになった。