「ヒトラー 〜最期の12日間〜」をDVDで観る。はじまって十分くらいで、これはたぶん、なんとなく見応えのない映画っぽいなあ、と予感せられた。でも結局、ほぼ三時間、抵抗感・摩擦感ほぼゼロのまま、漫然と観てしまった。見るに値する瞬間はほとんど無かったけど、でも、ヒトラーという人物を、ブルーノ・ガンツが演じるということだけでも、この映画の存在理由はあるかもしれない。それだけはやはり、ある種の挑戦の結果だろうと思われた。実際、最初にブルーノ・ガンツがヒトラーとして登場するシーンは、ある意味衝撃的である。だって、それはまさに、ブルーノ・ガンツなのだから…。だから後半の、如何にもヒトラー的な調子で激怒して周囲に当り散らしているシーンなんかよりも、ソファーに座っておだやかな態度でくつろいでいるシーンなどの方が、はるかに強烈である。秘書やエヴァ・ブラウンを相手に和やかな表情で話をするシーンなどは、それ自体が、おそろしく危険な領域に触れてしまっている感じがして、一々ショッキングだ。ブルーノ・ガンツが、あの内省的な微笑で、相手を見たりする。その感じ。それを、ヒトラーだと、この映画は云うのだ。
…で、しかしそれ以外の登場人物に対しては、ほとんどおもしろくない。ことに、この手の話であればもっとも重要というか、どのように造形するかに注目せざるを得ないような登場人物であるヒトラー愛人のエヴァ・ブラウンは、ほんとうにあれでよかったのか、まあ、あんな感じにするしかないとも云えるけど、でもあれではちょっと、納得行かないという気持ちになる。必要なことは全部やっているけど、やっているだけで、エヴァ・ブラウンというあの映画内の存在すべてが、まったく定着せずに空転したまま終わったという感じ。ヒトラー側近たちや脇役の連中も、もちろん主人公の秘書も、ほとんどよくないように思われる。例外的に、ゲッベルスの奥さんだけは、とくに体調を崩しているときだけは、ちょっと良かったけど、でも終盤は他と同様よくなかった。なにしろ、地下の情況や地上の情況などを、色々な人を案内役みたいに使いながら、均等に描写していく平板なやり方がすごく説明的でセコイ感じ。戦闘シーンも病院のグロで凄惨なシーンも乱痴気騒ぎなシーンもみんな再現っぽい生真面目さで観ててシラける。終盤のダラダラ宴会してる情況なんか、もの凄くおもしろくなりそうな雰囲気だから余計に歯がゆい。
まあ、当り前だけど、あらためて、やっぱり巨匠の映画は凄いってことなのだなと思う。ビスコンティとか。