そのクラブの前を通りかかって、アルト・サックスをPAにつないだような音を耳にした。中に入ってみると、それがチャーリー・クリスチャンのギターだった。
「ジミ・ヘンドリックスとアメリカの光と影 -ブラック・ミュージック&ポップ・カルチャー・レヴォリューション」(チャールズ・シャー・マリー) 5章[未完の人生と夭折シンドローム]より
上記の一文だけで、チャーリー・クリスチャンの音楽を、ほぼ完璧に説明できているような感じがする。その唐突さ。いきなりそれが成立してしまっていることの驚き。たしかにそうだ。「衝撃」というのは、こんな姿で到来するものなのだ。
下記はレコーディング・セッション中のベニー・グッドマンの前で、クリスチャンが自分の腕前を披露する瞬間の下り。最初、グッドマンはクリスチャンのことを好意的に思ってない。
その視線でステージを見渡すと、彼(グッドマン)は「ローズ・ルーム」と曲名を告げた。その曲なら--ブルースのコード進行とは違うので--この"とんでもない無礼者"はついてこられないと思ったのだ。クリスチャンはそこに座ってニコーラスほど耳を傾け、曲の流れを掴むと、いきなりアンプのヴォリュームを上げてギターをかき鳴らし始めた。グッドマンがほとんどクラリネットを取り落としそうになる中、クリスチャンは勝手に次々と目もくらむようなソロを繰り出し、最後にリーダー自身がもう一度演奏に入ってくるようにはっきりキューを出した。
(同上)
上記も、何が良いって、「いきなりアンプのヴォリュームを上げ」るところに尽きる。その音!想像するだけでぞっとする。これなのだ。チャーリー・クリスチャンの革新性とは、バップの革命を起こしたということとほぼ等しく、アンプリファイズド・ミュージックの革命を起こしたという点にあるのだと思う。ギターの単音弾きという技法が、増幅装置無しにはありえなかった。というか、それを当然のように実施した結果、いきなり「アルト・サックスをPAにつないだような音」が鳴り始めたのである。
ちなみに、チャーリー・クリスチャンのレコードは今、手元に一枚も無い。昔聴いてたのはどうだったっけ?実際聴くと、まあさほど面白いものでもないというか、さすがに古過ぎるのだが…でも久々に聴いてみたい。