初期


中学生になって、入学式の当日だったかその数日後だったか、なぜあの日のあの感じだけを今でも鮮明におぼえているのか。大学に入学したときよりも、中学校に入学したときの方が、僕はよほど自分が、人間の世界においてようやく一つ上のランクに上がったような気がしたものだ。校舎と校舎の間を歩いて中庭に行く手前で、各部活の勧誘合戦をやっていて、やたらと声をかけられて、腕を掴まれて引っ張られそうになって逃げたりして、やれやれ、これは大変だねなどと、友人と顔を見合わせて困惑の苦笑いみたいな、すべてが芝居がかっていて、しかし気分は高揚している。制度的なものに巻き取られてしまったというフィクションの王道的なものに自分もついに参加した、その高揚感だったろう。


部員に囲まれて、部室に連れていかれて、それで一瞬、演劇部に入りそうになったのだった。しかし全員女子ばかりだったので、やめたのだった。中学一年生にとって中二や中三の女子は、完全に大人の女性、という感じがしたものだ。


たしか水泳部に入った。どうして入ったのか、経緯は忘れた。水泳は小学生のときからやっていたので、泳ぐのは好きだった。しかし、当時のプール。今思い出すと寒気がする。当時もそうだった。絶対に近寄らない領域とかあった。


中学二年のとき新しい学校が竣工して、自宅の学区がそちらに変わったので転校した。そっちの中学では水泳部が無くなってしまったので、中二と中三は卓球部。一緒に入部したHとWと僕の三人で、ひたすらつるんでいた。三人でいた時間は楽しかった。今思い出してもそうだ。映画をよく観にいった。中学生の自由になる範囲での金で行くのだからそう頻繁ではなかっただろうが、けっこう行った。HもWも、それぞれ好みというか個性があって、それぞればらばらな性格をしていたが、そこが良かった。


部活の時間も、三人だけでほぼ遊びのようにして過ごしていた。一年上と一年下は異常に真面目な、というか通常の部活動をしている感じだったので、我々だけは常に浮いていて、一年下の子達は一応先輩に対する態度を取らないといけないのに、こっちはマトモに練習もしないしふざけ切った態度でいるものだから困っていた。本音はきっと、そんなふざけた奴らに卓球台を使わせたくなかっただろう。


高校に入学して二年まで再び水泳部に入った。さすがに真面目に毎日練習があった、が、そんなに強いチームでもないし、まあそこそこやってるだけで、後は先輩も後輩もそれなりに仲良しで面白かった。合宿とか面白かった。ちなみに僕は男子校出身である。男子校というのはとても面白いのだ。共学の高校生活を知らないから比較対象も無いのだが、面白いは面白い。


二年の途中で退部して美術部に入った。美術部に入ってからは、異常に真面目にやった。部活動を真面目にやるというよりは、単に絵を描くことだけに没頭するという事で、完全に自分の世界に突き進むことになる。性格もダークに。どんどん内向した。自分が、自分自身に対して独裁状態になった。一人ファシズム。あれは、どうにも…あんな風に頑張るのは、けしていいことではなかったかも。今となっては、そう思わなくもない。