養護教諭

女子とくらべると男子は身体の成長推移が遅いとはいえ、中学校入学から卒業までに起こる変化は個人差はあれ決して小さなものではない。

中学一年生から三年生までのあいだに身長が何センチ伸びたのかは忘れたが、それなりに人並みには伸びたわけで、変化率としてはあの三年間が、生涯における最強の伸び具合ではあるだろう。それは多かれ少なかれ、その時期であれば誰だってそうだろう。

中学を卒業するときに、保健室の先生が「成長の記録」という薄い冊子を各生徒に配ってくれたのを、ふと思い出した。たしかそこには、身長や体重の三年間における推移が書かれていて、あなたは三年間でこれだけ体が大きくなりましたというのが表と簡単なグラフで示されていて、卒業する者へのはなむけの体裁になっていて、紙面の最下段にはそこだけ手書きで、生徒一人一人に向けて数行のコメントが書き加えられていた。その先生は僕に宛てては、何かのときに、あなたが書いた感想文を読んだことがあります、とても素晴らしかった。と書いてくれていた。それを読んだ時の、自分の根本からふわっと揺らいで宙に浮くかのような、あの感じは、その後にも先にも味わったことのない何かだったなあ…と今になって思った。身体のスケール感について数値管理されつつ、さらに書いた文章を読まれて、唐突にその感想を聞かされて、おかげで今でも僕はその先生のことをぼんやりとおぼえているくらいなのだが、なにしろ中学生時代こそ、マゾヒズムを味わうにうってつけの環境にほかならなかったな…と思った。

会社員をやってると、健康診断は毎年受診するのだが、あれに従順な心で従っているときの思い、各部位として読み込まれて数値を引き出されてしまうことを受容するときの、なんとも形容しがたい感覚の原点に、当時のそれがあるのかもしれない。