今生


去り行くひとが、去り行く準備をする。こちらはそれを、ただ見送るだけ。今生の別れですね、とか言われて、まあたしかにね。いや意外とそうでもないかもよ、また近いうちにふいに会ったりして…とか言って、たしかにそうですね、この業界、狭いですからね…とか言って、それでは、さよならと言って、あっけなく済んだ。お酒の一合小瓶を贈られた。嬉しい。週末に、いただきます。たしかに、おそらくはこれで、今生の別れでしょうね。しかしこの現場、人の出入りはほんとうに日常茶飯事なので、出会いも別れも、もはや何ということもない。むしろそういった人の行き来が、これほど日常的になってしまったことの方に驚く。それは僕にとっての今生というものが、じつはさほど遥かなものではなくなってきつつあるからだろうか。