「それ、からあげ定食でしょ。」
「からあげより天ぷらの方が好きだな。」
「天ぷらってごはんのおかずになります?」
「僕、ごはん食べないし。」
「ああそうか。」
「私は天ぷらよりからあげがすきだな。」
「からあげと竜田揚げならどっちが好き?」
「迷いますねえ、竜田揚げも好き。」
「最近いろんな味があるじゃないですか、僕はキムチ味がすきです。」
「キムチ味のからあげなんてあるの?」
「あります。タレがキムチ味なんです。」
「へー、キムチも色々美味しいのもそうでもないのもあるよね。」
「そうですね、でも僕キムチそのものはそんなに好きじゃないんです。」
「なんだよそれ。」
「私キムチよりカクテキが好きです。」
「あーカクテキの方が食べやすい。辛くないし。」
「たしかに。」
「キムチとカクテキならどっちが好き?」
「私もカクテキ。」
「そうなの、じゃあ、あのさあ韓国のアレ、なんだっけ三色の漬物。」
「ナムル、ナムル。」
「そうそう、ナムルって緑と茶色と黄色あるじゃん。」
「なにそれ。」
「だから、モヤシと何かと何か。」
「あの緑色って何?」
「たぶんホウレンソウじゃない?」
「そうなの?」
「わかんない、たぶん。」
「モヤシとホウレンソウと、あと何だっけ、ニンジンだっけ。」
「ニンジンもあるし、別のもあったかも。」
「あれで、どれが一番好き?」
「私モヤシ。」
「おれも!」
「モヤシだけでいいよね。」
「いやあ、僕モヤシの豆のところがあまり好きじゃなくて。」
「あそこが美味いんじゃん。」
「モヤシだけを皿いっぱい食べたいね。」
「モヤシはスーパーで安いし買ってきて湯がいて塩コショウ酢でさっと味付けしたら美味いですよ。」
「おお、美味そうだな。アレでしょ、二郎系とかのラーメンにのってる野菜も、そんな風に湯がいてるだけでしょ。」
「そうですね。」
「二郎みたいなラーメン食べたことある?」
「あります私一度だけ。すごいわくわくしてお店行ってテンション上がって、でもすごい量で全然ダメでした。」
「それでもういいやってなったの?」
「はい、もう二度と行かないって思いました。」
「僕ラーメンはもう何年も食べてないわ。」
「何年もですか?それはすごい。」
「ふだんは平日の夜とかでも食べるの?」
「ぜんぜん食べますよ。」
「すげえなあ。」
「でも私この前台湾ラーメン食べた話しましたっけ?」
「ああ、聞いた。」
「俺聞いてない。」
「食べたらもうすごい辛いんですよ、最後めまいがしてふらふらになりました。」
「辛いものはねえ、でも食べたくなるよねえ。」
「僕も十年以上前は週四回で極辛カレー食べてたけど、今はもう無理。」
「週四回ですか!」
「週五回行くとさすがにお店の人から(こいつバカだろ)って思われそうだから。」
「週四で充分にバカって思われてますって。」
「週一でも思われるんじゃないですか?」
「週一で通ってる客なんて死ぬほどいっぱいいるから。」
「そうなんですか?」
「そりゃそうだよ、土日なんか行列で入れないんだから、その店。」
「えーみんな頭がおかしい。」
「でもああいう食べ物はもしかすると何か中毒するものが入ってるのかもね。」
「スパイスとか依存物質っぽいよね」
「絶対そうですよ。」
「でもラーメンもそうだと思うけどなあ。」
「ラーメンも同じ店の同じラーメンばっかり何杯でも食べて平気な人っているよね。」
「僕は絶対だめ。同じもの二日続けて食べるなんてありえない。」
「えー?でも煮物とか二日目が美味いじゃん。」
「そうですよ、それに作りすぎたら余るじゃないですか。」
「僕は絶対に余らないように作りますから。」
「余らないようにって難しいよね、食材が無駄になりがち。」
「そう、だから冷凍庫ですぐ凍らせて。」
「冷凍庫ってすぐに食べ物のお墓みたいになっちゃう。
「冷凍庫は凍らせるだけだからまあいいんですけど、冷蔵庫の中が何があったかすぐにわかんなくなる。」
「そうそう、うちら夫婦なんか二人揃って全然わかってなくていっつも余計なもの買うの。」
「それわかる。」
「だって日曜日に作った煮物が昨日の夜やっと全部なくなったんだから。」
「そうなりますよねえ。」
「でもさあ、もう何百回も何千回も家でごはん作って、いまだに適量ってのがわかんないの。」
「作るとどうしても作りすぎますよね。」
「そうなんだよね。この前の日曜もさあ、夕方四時くらいから夕食はじめてさあ。」
「四時からごはん!早いですね。」
「ああ、そうか、朝しか食べないから夕食が早いのか。」
「そうなの、でも食べようとした半分も行かずに満腹になっちゃって、時計みたらまだ四時半くらいだったの。」
「えー、でもそのあと夜になったらおなか空くでしょ?」
「そうでもない、おなか空いてもガマンする。酒は飲むけど。」
「私そんなの絶対ガマンできないわ。」
「できるよたぶん。でも夜に寝ちゃうことがあるのよ。そっちの方がダメ。」
「でもバタッと寝ちゃうのって気持ちいいですよね。」
「そうなんだけど、日曜の夜の七時か八時に寝ちゃって、十時や十一時に目が覚めると最悪だよ、その夜はもうまともに眠れないから。」
「ああー、眠れないままで最悪の月曜日の朝になる。」
「そうなの、ものすごい寝不足で出勤することになる。そういうことってしょっちゅうだよ。」
「ああ、だからこの前の月曜もぼけぼけの顔してはったんですねえ。」
「それは君もでしょ。いっつも月曜日テンションだだ下がりでしょ君は。」
「はい、日曜日なんか最近私、朝くらいから、ああー明日会社かっ…て憂鬱になります。」
「それわかるけど、最近自分そういうこと感じなくなってきた。」
「わかる。年のせいか、月曜日が嫌だとか、土曜日が待ち遠しいとか、そういう気持ち減ってきたよね。」
「そうですよねえ。」
「金曜日の夜とか、ぜんぜんときめかないのよ最近。」
「そんな風になっちゃうんですか?私なんかもう金曜の夜になったら夏休みが来たくらいテンション上がってますけど。」
「わかるけど、もう何十回も何百回もそれを繰り返してるうちに、平日も休日も落差感じなくなってきちゃった感じ。」
「ですよね。年もそんなに違いがない。」
「金曜の夜なのにさあ、なんでこんなに普通の気分なんだろ?って不思議に思うくらい普通に帰っちゃうからなあ。」
「そうなんですか、それは寂しいじゃないですか。」
「まあその方が楽と言えば楽なんだけどね。」
「今日が水曜日でしょ?だから今日あたりに思い浮べる金曜日の夜が、一番キラキラしてる感じだな。」
「それで金曜日になったら、いつもと変わらないぜんぜん普通の夜って。」
「そんなのつまんないですねえ。」
「つまんない、つまんない。」
あ、声を出してみて、はじめてわかった。細くて高い、女だ、これが、私の声なんだ。