中村佳穂

Mさんレコメンドの中村佳穂のアルバム「AINOU」を先日はじめて聴いた。中村佳穂を聴くのはこれではじめてではなかったかもしれないがちゃんと聴いたのははじめてだからはじめて聴いたようなものだ。そして驚いた。「きっとね!」という曲。この完成度の高さは凄い。完成度と言っても、一聴してすごくラフな、勢いやノリを生かした感じではあるのだが、それがそのまま推敲され精巧に微調整されて編集された結果でもあるようにも思われ、その勢い重視なスピード感と微分的作りこみ感のブレンド具合を、すごい完成度だという言葉で言いあらわしたくなるし、楽曲全体の魅力もさることながら、何といってもボーカリゼーションが凄い。この人、歌上手すぎではないか。最初ハナレグミの人っぽい?…などと思ったが、ハナレグミより上手いかもしれない。微妙にフラット気味な、ややダルく下がる感じの、投げやりな歌い方のようでいて、じつは曲のコードラインとばっちり調整されているような、ほとんど超絶技巧的な歌いかたに感じられる。まさか歌も後から調整しているのか、いや、それはないか。

まだアルバム全体の印象が記憶の中に身を結ぶほど繰り返し聴いてはいないのだが「きっとね!」の他「アイアム主人公」とかも、かなりいい感じに思った。既存音楽のスクラップアンドビルド感というか、ある意味コーネリアス的な感触も感じられる。しかし何よりも重要なのは、歌や曲そのものに、言葉にしにくい音楽的幸福感というか聴く人を高揚させる奇跡のマジック感が宿っていることだろう。