Prime Videoでマーク・サンドリッチ「コンチネンタル」を観る。制作年は1934年、当時フレッド・アステア35歳、ジンジャー・ロジャース23歳である。驚いたことにアステアとロジャースが二人で踊るシーンは中盤以降まであらわれず、役柄としての二人の誤解がじょじょに氷解し始めてようやく…という展開である。お話自体は、昔っぽくて他愛もないコメディなので、物語の間延び感は観ていて正直かったるいのだけど、それでも二人のダンスがはじまると、その驚愕すべき身体運動への驚きと、男女の心が少しずつ変容し寄り合っていくという意味作用とが混ざり合って、一応でもこうして「物語」として観るのは、単体で取り出したダンスシーンだけをまとめて観るのとはやはり違った面白さというか味わいがある。
そもそも冒頭からアステアは無銭飲食を訴えられそうになり仕方なくレストランで踊りを披露するのだが、その態度がじつに勿体ぶってるというか、ほんのちょっとだけステップして、はい以上ですが何か?みたいな、いやいや…せっかくだからもっとやれよやれよと言われて、じゃあしょうがないなあ…もう少しだけね…という感じで、映画内の人物たちも実際の観客も一緒くたにされて、じつに心憎い焦らせ方と引っ張り方で、まさに踊るスーパースターの面目躍如という感じだ。前半までアステア本人のダンスの出番はそんな風に小出しにされたソロ・ダンスばかりだが、しかし信じがたく細身で手足の長い身体と、動作一つのキレの鋭さ、すべてが奇跡の偶然であるかのような驚きに呆然とするばかり。当時の映画館に詰め掛けてスクリーンを見つめて目をうるませていたファンの状態と何ら変わらなくなってしまう。後半から終盤にかけてはほとんど集団舞踏が大爆発というか祭祀的な祝典みたいになって、いくらなんでもものには限度があるでしょ、もはやリーフェンシュタールかよ…と云いたくなるほどだが(というか「意志の勝利」制作と同年か…)、その中心で踊る二人の可憐さには、ほとんど言葉をなくす。
観終わったあとYoutubeで、ひたすらアステアのダンスシーンを検索しては視聴をくりかえした。夫婦そろって、何時間ぶっ続けで観ていたのか、はっとして気付いたらすでに窓の外が真っ暗になっていた。しかし本作クライマックスの二人のダンスは、残された様々な映像でこの日に観ることができたなかでも傑出した部類の一つに思われる。最後二人が全力疾走で階段を駆け上り回転ドアの向こうに消えていくあの一瞬、あの躍動そのものの後ろ姿は、何度見てもほとんど感極まりそうになる。