食器を片付けて散らばった本や何かを整理して、電気を消すと部屋は暗くなる。暗くなった部屋が沈黙したままで、僕がそこから出ていこうとするのを、静かに待っているような気配をたたえる。そんな部屋の様子を僕はしばらく--と言っても数秒かそこらだと思うが--じっと眺めていることがある。部屋の主が出て行った後の部屋が、よけいにその主の雰囲気をあらわしているような気がするからでもあるし、主とはぜんぜん別の部屋そのものがそこに佇む気配を感じられる気がするからでもある。
高校生の頃から、同じように自分の部屋をじっと見ていることがあった。机の上の様子、本棚、椅子の向き、床に置きっぱなしの冊子や紙片、仕事が遅くなって、会社を出る最後の一人が自分だったときもそうだった。照明を落として施錠する前に、自分のデスク周辺をしげしげと眺める。ここで働いている人がいるのだと思う。ここに住んでいた、暮らしていた人がいる。あるいは、誰もいなかった、ずっとこのまま、沈黙と静止とともに、この場所があり続けた、それを感じる。