土曜日の夜だったか、寝るまでの時間、窓を開けたら風が入ってきて、レースのカーテンが大きく持ち上がり丸く膨らんで、すぐに吸い込まれて網戸にぴったりとへばりついた。部屋を風が、波のように行き来しているのだった。気温は肌に涼しく快適に感じられた。ただし空の向こうで時折ライトが点いたように光った。こんな真夜中に稲光かと思ったが、真夜中だろうが真昼だろうが稲光が光ることはある。雷の音はしなかった、もしくは聴こえなかった。数分に一度くらいの間隔で、稲光だけくりかえしていた。本の続きを読んでいて、ふと気づいたら足を三か所、蚊にやられていた。しまった、部屋に入ってきたのかと思って、棚の奥を探していると妻が起きてきた。蚊がいると言ったら、私も刺されたみたいと言う。見つけた蚊取り線香に、火をつけた。薄灰色の煙が、身をくねらせながらゆっくりとのぼり、久しぶりの香りが部屋に漂う。線香の皿を足元に置いて、読書に戻った。煙くて、少し離した場所に置き直した。煙の動きを行く末を、少しの間じっと見ていた。しかしこんな煙で、蚊が死ぬものだるろうかと、蚊がこれを吸って死に至るのだろうかと、いつも不思議に思う。いつの間にか稲光は止んでいる。このあと未明に、ふたたび雨になるらしい。風も勢いが衰えないまま、一帯が風雨にあらわれて、朝になればちょっとした台風明けの朝みたいな様相になるとまでは、その時点では予想できない。