夜の八時を過ぎても駅前のお店は営業を続けていて、外からでも様子がよく見えるガラス貼りの居酒屋の店内に、ほとんど満席に近いくらい客が入っている。大きなテーブルを五、六人で囲んでる席、二人で向かい合ってる席、カウンターに並ぶ席、いずれも人でぎっしりだ。それがどこか、とてもめずらしい景色に見える。いったい何の目的で、ああしてあそこに皆が集まっているのか、一瞬不可解で不条理なものに感じられる。ただし本来それが自然なもので、誰もが当たり前のようにしていたことであるのもわかっている。それなのに目の前の景色がなぜか不思議なものに見えてしまう。相手を見て笑っている女性の顔がはっきりと見える。それがまるで、外を歩く自分に笑いかけられたような感じがする。その顔の、すでになにかがほどけた感じ、警戒や緊張のいっさいない、インもアウトも無制限な表情に軽い衝撃を受ける。露天風呂の岩場に、裸をさらして悠々とくつろぐ姿を見てしまったときの感じに似ていたかもしれない。