Bunkamura ル・シネマで、濱口竜介「偶然と想像」を観た。映画がはじまって、相変わらずのいつもの、濱口作品の雰囲気だな…と思った。過去作品で言えば「PASSION」(2008年)を思わせるというか、それに近いテーマを扱ってる気がした。そう思ったのは、役者が一部同じだからという理由だけではなくて、誰かが誰かについて思うことを、どうにか言葉でまさぐろうとする、そのやり方に共通するものを感じたからと思う。
短編三篇からなるオムニバス作品で、それぞれの話には直接的なつながりは無いが、自分が自分の(他者への)期待や欲望を抑圧することへの迷い、そのことへの後悔と、それを克服することの希望みたいなものが共通のテーマとして一貫しているようには思えた。とはいえ観ているときの、濱口竜介的な「この感じ」は、もうさすがに何度も観たような、そんな既視感のあるものを、また再び観なおすことになるのだろうか…と、最初はやや低調な期待感をもって観始めることになった。
しかし第三話がとても素晴らしくて、やはりすごいなと、これは観ることが出来て良かったと思った。「天国はまだ遠い」(2016年)にも通じるものを感じもした。
話としては、ありえないとも言えるし、意外にありうのではとも言えるのだが、じっさいにその二人が室内でやり取りをして、関係をかたちづくっていく場面のひとつひとつが、ほんとうに素晴らしい時間のように感じられた。何が良いのか言葉にするのが難しい、二人の役者が良いとも言えるし、演技がいいとも言えるし、脚本や台詞や演出が…とも言えるが、おそらくそのどれでもない、しかしその要素のひとつでも欠けたら、こうはならないと思えるような時間だ。
ここで描きだされた二人の人物が織りなす、こういう「関係」こそが、"生きるよろこび"だとさえ言えるのではないかと。というよりも、人間同士なんて、突き詰めれば結局は、このようなやり方でしか、出会えないのではないかと…。それ以外のすべての関係なんて、じつのところ幻想であることにさえ気付かぬままの、互いの勝手な自己満足に過ぎないのではないかと。でもここでは、それが幻想であることを、お互いに認め合い、肯定し合い、なおかつお互いにとってのその後の時間を、静かに応援しつつましく祝福しあうような、最良の上品さがあらわれているように思った。ラストの場面は、もうちょっと控えめな終わり方でもよかったかな、、とも思ったが。