東海道四谷怪談

Amazon Prime中川信夫東海道四谷怪談」(1959年)を観る。蚊帳というものから感じさせる不気味さ、薄暗がりの向こう側の怖さみたいなものが効果的に活用されているのかな、と思った。薄緑色の、とてもきれいな蚊帳のなかに病身のお岩が寝ていて、その向こうに伊右衛門が座ってる。お岩の視点からは伊右衛門が何をしているのかはほとんどわからない。まさか自分に盛るための毒薬を用意しているとは思わないから、お岩はやさしく自分を労わってくれる伊右衛門に感謝の涙を流すのだが、伊右衛門はそんなタマではなくて、涼しい顔の二枚目顔を終始崩さぬまま、お岩を平然と死に追いやる。

「戸板返し」は戸板の両側に人を貼り付けてそれを裏返す演劇的な演出手法だけど、本作では戸板が天井になったかのような仕掛けが…つまりこれまでの伊右衛門とお岩の視線が交わっていたはず座敷上の視点から、ふいに伊右衛門が目を上げるに合わせて、ぐーっとカメラが天井を見上げると、そこに無残な姿のお岩の幽霊が貼りついているという、唐突な上下運動に置き換わって演出されている。この瞬間は、なかなか怖くて、おお…と思わされる。

戸板に全身を括りつけられているという磔刑図的なイメージはこの後も何度も出てきて伊右衛門を苦しめ、最期は伊右衛門も末期を迎えるのだが、これが一部始終、伊右衛門が勝手に悪夢か幻想を見ているかのように解釈することも容易にできるので、それをもって伊右衛門の後悔とか贖罪の心でこの結果になった、最期に伊右衛門が許しを請いお岩がそれを受け入れたのだと、そう言うなら言えなくもない風にも作られている。

それにくらべると、妹のもとに訪ねてくる幽霊のお岩は、完全にそこにいながらにして幽霊との表現がなされている。怖いと言えばこちらの方が怖いし、こちらのほうがいわば映画的幽霊である、とも言えるだろう。

ヘビがたくさん出てくる映画で、僕はヘビはきらいだけど映画に出てくるとつい食い入るように見入ってしまう。しかし蚊帳の上にヘビがいるのは、気持ち悪かったな…。