先週のことだったか、午後の強い日差しを浴びながら歩道を歩いていると、前方からけっこうなスピードの自転車が二台並んで近づいてきて、歩道の中央を歩く我々二人を除けるため左右に分かれて、さーっと両脇を通り抜けて、変わらぬ速度のまま走り去って行った。
それはやたらと楽しそうな様子の高校生の男女ペアで、自転車を漕ぎながらひたすらおしゃべりに打ち興じていた。
まるで、ほとんど映画みたいな、若い時代のひとときを表現したような、こんなベタに楽し気な男女二人のシーンもないだろうと思われるような、まるで「絵に描いたような」一瞬だった。
何しろあれだけのスピードで自転車で並走しながら、お互いの顔を見合ってお喋りしてるというだけですごい。すべての景色は、彼と彼女のはるか後方へ、一挙に置き去りにされてしまうのだろう。そのとき歩道にいた我々のことなど、彼らの意識の片隅にさえのぼらなかったことだろう。彼らの視界に入るのは、お互いの顔のほか、それ以外の流れ去る全風景しかなくて、そして楽しいお喋りだけがどこまでも弾む。
まあたしかに、もはや我々には絶対おこりえない他人の夢のような何かを、その瞬間に垣間見たのかもしれなかった。