中途半端に遅い時間になってしまい、スーパーの食材にはこれといって惹かれるものはなく、今からつくりたい料理も思い浮かばす、その時間もなく、かといって外食に適当な店も見当たらず、今夜の食事をどうするのか決めかねたまま、二人で家までの道を歩いていて、そのとき眼前に、某チェーン系回転すし店の姿が、忽然とあらわれた。

これまで数えきれないほど何度も通った道なのに、その店を利用する機会はこれまで一度もなかったし、ふだんなら見向きもしないのだが、今日はちがった。たまにはいいじゃないか、もし混んでなければ、社会勉強のつもりで入ってみるかと、入口のドアを開けた。

店員の姿は見当たらず、タッチパネルのモニタが目の前にあるだけだ。あ、これは…と思って、即座に脇にどく。続いて入ってきた客が、迷うことなくタッチパネルを操作しはじめるのを、じっと盗み見る。なるほどすごいな、いきなりパネル操作で席案内を請うわけか。何事もなかったかのように自分もパネルを操作する。まるで銀行か病院の待合室のように、自分に割り当てられた番号が天井から吊るされた巨大な液晶に表示された。

ほどなくして案内されたテーブルにもタッチパネルがあって、注文はすべてそこから可能だ。まずはお酒をふたつ注文して、御猪口の数をふたつにし忘れたと思ってひとつ追加したら、店員の若い子がすぐに持ってきてくれたのだが、すいません、御猪口がいま少なくなってまして、三つ目の御猪口はこれになっちゃうんですけど・・と言うので、いや二つでいいんです、すいません三つはいらないですと言ってそれは良かったのだが、それにしても驚かされたのは三つ目の御猪口と称して持ってきたのが小ぶりの丼ぶりみたいなやつで、いや、、そこはふつうのグラスとか湯呑とかでよくない?いくらなんでも大きさおかしくない?と思わされる感じで、これって御猪口のかわりになる器として、大きさや用途じゃなく似た色と材質が優先度高でチョイスされてるな…と思って、あの店員さんも、意外にもしかして非人間の可能性あるな、とも思った。

お酒以外の注文品はぜんぶベルトコンベアでテーブル脇に配達される。でてくる握り寿司は、なるほどこれがうわさの機械握りか…とわかるやつで、酢飯と刺身を子供が見様見真似で組み合わせてつくったような感じもあり、ふしぎな滑稽味というか、テクノロジーの半端さが醸し出す妙な可愛さを感じさせるようなものだった。