作りはマンションだが住宅としてはまったく利用されてない、雑多な業者がたくさん入居してそれぞれ商売を営んでいるのだろう雑居ビルである。一階エントランスも一見廃墟のようだが、入居者一覧にはさまざまな業者名がぎっしりと並んでいる。歩行者へ行く先を示すシートが足元で半ば剥がれかけている。もう夜の八時を過ぎていて、かなり薄暗くて怪しい雰囲気なのに、エレベーター前や通用門周辺を、不思議なほど多くの人が行き交う。おそろしく狭いエレベーターに、ぼくの後を追うように若い女性が二人ばかり乗り込んできて、それだけでぎゅうぎゅうになった状態で目指すフロアまで昇る。扉が開き女性たちは右手へ向かう。ぼくは部屋番号を見て反対方向へ歩く。長く続く廊下の突き当たりでスマホを見ながら辺りを見回してる男がいる。彼もたぶん若くて、場の雰囲気にそぐわず、見かける誰もがふつうに小奇麗な恰好の一般的若者たちの感じがする。それぞれがそれぞれの理由や目的をもって、このフロアのどこかの部屋を出入りしている。