およそ十年以上前に録画した番組を妻が久々に再生していたので、それに付き合う。「小澤征爾 復帰の夏~サイトウ・キネン・フェスティバル松本2013~」いくつかあるプログラムの一つ、大西順子トリオと小澤征爾指揮によるサイトウ・キネン・オーケストラによるガーシュイン「ラプソディー・イン・ブルー」の演奏。当時、小澤征爾は七十代後半、大西順子は四十代後半くらいだけど、リハーサル中の二人のやり取りが、なんともすごいというか、いやむしろすごいところのなさが、かえってものすごい。まるで足立区か葛飾区の町中華とか居酒屋で、近所のおっさんとおばさんが世間話してるみたいな、お互いに言いたいこと言ってるだけで、気取りも自意識もなく何かを取り繕う気もいっさいない、音楽家すごいな…とあらためて思う。そう思うのは、おそらく自分がもはや自覚のしようもないほど会社員だからだけど。
百パーセント、自分の意志や欲望をもって、その力を信じ切って動いている人間という感じがあり、同時にまったく百パーセント自分の意志でも欲望でもない、外的な何かに従っているようにも見える。強靭に見える人間とは、つまりそういうことで、その強さの核が、内側のようでもあり外側のようでもあるな、と。