水浴あるいは水泳、それは人間が古代からたしなんできた行為だろう。洗浄、衛生、あるいは遊戯、あるいは運動競技、人間はたびたび水辺に近づいて、衣類を脱いで、裸身を晒してあるいは隠して、あるいは水着を着て、そのとき人間は、あえて脅威に近づく。警戒を緩め、無防備になり、自分が脆弱になることを一時的に許容する。そして身体に水が浸み込んでいくのと、高まった緊張が少しずつほぐれていくのを、同時に感じ取る。

はじめて訪れた施設の、更衣室およびシャワールームおよびプールエリアを利用するとき、自分がそんな太古の人間のひとりになった気がする。更衣室の場所は受付で教えてもらうから良いとしても、着替えて水着になった姿で、そこから掲示案内だけをたよりにその先へ進むのは、なかなかの不安と、かすかなスリルがあるのだ。

いきなりシャワーとサウナがあって、戸惑いが広がる。突き当りのドアを開けようとして思いとどまる。女性用ロッカールームのドアだ。油断してると、これはあっさり開けてしまうだろう。その手前の階段を下りるのが正解だ。下りきったところに、さらに小部屋があり、またシャワーがあり、その先がプールエリアのようだ。しかしここが、まったく知見のない、右も左もわからぬ場所であるのはたしかだ。他にもドアがあるけど、あれを開けたらいきなり、外の夜空の下へ出てしまうことはないだろうかとさえ思う。今、いきなり敵に襲われても、なすすべなくやられてしまうだろう、こちらは文字通りの丸腰なのだから