金曜の夜、これからどうしよう。ダメもとで、一年以上行ってない鮨屋に電話したが、予想どおり満席でことわられた。ほかにあてもなく、ひとまず横浜から上野へ移動し、人でごったがえす立ち呑みの店に入る。店員がまるで羊飼いのように手の動きで空いてるスペースを示すので、彷徨う羊はいそいそとそちらへ向かう。ナチの収容所の囚人みたいに、聴きとれるようにはっきりとした声で注文を告げる。人のひしめく店内で、自分の居場所を確保した気になって弛緩するよりも早く、供された一杯と一皿を片付けて、用を済ませてトイレから立ち去るように、済むものが済んだから無言で店を出る。滞在時間は五分に満たない。

あわただしく駅まで戻り、さらに地元方面へ移動する。もう一軒立ち寄るべき店があるのに気づき、いや、呑んでるうちに立ち寄る気になったので、その店を目指そうと思う。さっきの数分で、そのモチベーションを得たのだった。金曜夜だというのになぜかこうして、つまらない挨拶まわりみたいなことになってしまうのだなと思う。