裏の畑


国道沿いの、見渡す限りどこまでも畑が広がっている広大な地平の真ん中に用水路が通っていてほんの少しの水が底を黒く湿らせているが側壁に貼り付いた水藻や苔は完全に乾ききって冬の風に吹き晒されている。その溝に平行した、何十年も前のでこぼこしてところどころ雑草の生えた舗装道路を歩く。国道沿いのショッピングセンターや建物がところどころ点在する以外は、ほぼ地平線まで見えそうなほどだだっ広い何もない地平のひろがり。遠くに見える水色にかすんだ山々の連なり。その上に覆いかぶさるような巨大な空。冬の日差しが降り注ぎ、冷たい風が身を切るように吹きすさぶ。コートが風を受け左右いっぱいに広がろうとするのを手で元に戻して前のボタンを止めて襟元を抑える。首に巻いたマフラーの裾も暴れまわり顔に覆いかぶさろうとしてこれも手で抑え付けられる。風が絶え間なく身体や耳元にぶつかるときのボボボボボボというはげしい音。耳朶ももはや千切れんばかりに冷え切って感覚をなくしている。これほどの寒さなのに、しかし太陽光線はおしげもなく降り注いでいる。素晴らしい快晴。しかし強風。風が舞い、自分を追い越して畑の真ん中を走り去っていくのが見える。もはや枯れ草と干し藁だけの荒れた畑が砂塵を舞い上げる。唇ががさがさになっているのを感じる。唾液で口の中を湿らせて、前歯に細かい砂が付着してざらざらしていたのを舌でなめて取る。遠くに蜜柑の木がみえる。蜜柑のオレンジ色が点々と浮かんでいるように見えてきれい。ちゃんと耕された畑の、京都の寺の庭みたいに一定の高さできれいに馴らされて揃えられた土の柔らかそうな真っ黒い色と質感もきれい。何年か前に死んだ実家の犬がばーっと走ってその整地に点々といくつもの足跡を付けてしまった事を思い出させる畑の土の黒い艶やかさ。