安物ワイン


さっき帰ってきたばかりですけど、今日の夜はあまり寒くない。あ、寒くないなあと思いながら歩いて家まで帰ってきた。途中でコンビニに寄って缶ビールとか安物ワインを買った。袋を受取って、鞄を持つ手の人差し指に引っ掛けて歩く。片手に鞄とコンビニの袋を持っていると、重みがかなり凄く、荷物をぶら下げている指の感覚が完全になくなってしまうほどで、しばらくすると、自分の指先に何がどのようにぶら下がっているのか、よくわからなくなってしまって、そのまま財布とかを鞄にしまおうとしたら、ついコンビニの袋を引っ掛けている指の力が緩んでしまって、買った品物の入った袋を思わず地面に落としてしまう。ゴゴゴゴと鈍い音がして路上をワインのボトルが転がった。不幸中の幸い。割れなくて良かった。ワインを拾い上げて袋を持ち直して、引きつづきずんずん歩き、そうやって今日も家に着いた。鞄からキーケースを出して、中の鍵を使って玄関のドアを開けなければならない。片手に持った鞄から出したキーケースの蓋を開けて、色々とぶら下がっている中から鍵を探し、差し込む上下を確認して、鍵穴を見て、そこに上手く挿し込まなければならない。それに躍起になっているときでも、鞄やコンビニで買った安ワインの重みは容赦なく、その重みのままでさっきからずっと片手に持ちっぱなしである。そのうち、指先にぶら下がっている鞄や袋やその他の様々なもののうちどれがワインでどれが玄関の鍵なんだか、わからなくなって、気付いたらワインのボトルを鍵穴に差し込んでぐいぐい回していた。ぎーっと重々しい音と共に扉は開かれた。思わずキーケースを床に落としてしまう。キーケースは割れ、赤黒い液体があたり一面に広がる。