自分の視界が、自分の顔の周りを飛んでいる小さな羽虫から見ている状態になっている。自分が見ているのは、巨大な塔のようにそびえたつ自分自身の顔の周りを、なめるように移動しているときの景色だ。まぶたの付近を徘徊して、その後でだから僕は、目の辺りがさっきからやけに鬱陶しく、しかし手で払うと、自分を叩き落してしまうような気がして、つい躊躇してしまう。手で払ったら、その途端に視界が真っ暗になる可能性も、なくはないのだ。だから大人しく我慢している。しかし、いつまでもこうして自分の顔の周りをぐるぐるしているわけではなく、やがてどこか別の方向へ向かうのは間違いない。しかし、そうなると僕もついにいまの精神を離れることになるはずだが、その場合、自分の心と身体は昔からたいそう仲が悪かったので、ようやくここにこうして、契約が成立したのはじつに晴れ晴れしい気分だ。これでお互い自由のチャンスを得られた。でも結局、それほど離れるわけでもなく、つかずはなれずなままでいる。あれは、何かを待っている。たぶんそうだ。きっとそのはずなのだが、しかしいったい何を待っているのか。バレエの衣装を着ていたのは、さっき居たヤツだ。ああいう格好をするのが趣味なのか。今日が特別だからその格好、というわけでもなさそうだ。東京もずいぶん変わったねえ。こんな買い物の場所ができたの。六月も早い。あと二週間。もう夜中の二時だし。蒸し暑くなってきた。今日はまっすぐに帰宅した。何も考えてない。寝るだけだ。家にいるときはほとんど白痴。土日も。ばからしい。仕事するかな。仕事なんてしないよ。