あの鷺


ニ、三年前に見かけた白鷺が、また最近、家の近くにいる。本当に、ニ、三年前に居たヤツと同じ鷺なのか?というと、それは確証はないが、近くでよく顔を見たら、同じやつかどうかすぐわかる、というものでもないだろうが、でも以前と同じようにしてるのだからたぶんそうなのだろう。


小川のほとりで、白い絵の具がぽんと浮かんだように、ぼーっと静止したままで佇んでいるかと思うと、急にふわーっと飛び上がって、ばさばさと羽根を羽ばたかせて、そのまま飛んでいってしまって、でも、そのまましばらく歩いていると、歩き道の先の方の、黒々とした桜の木の枝の上に、白くぽつんと、またとまっている。それで、木の下までかなり近づいてから、iPhoneを鷺に向けて写真を撮ると、シャッター音が意外と大きく響き、鷺はその音を聴いて、しばらく何か考えてから、またふわーっと飛立って、後姿をいつまでも見せたまま、まっすぐに空中を移動してどこかへ行ってしまう。写真撮るから、逃げちゃうじゃない、と妻が言う。僕はiPhoneをしまう。


駅前の広場で、東京の地酒祭りみたいな催しの仮設テントが設営されていて、のぼりがバタバタしていて、酒がずらっと並んでいて、煮物だとかいい匂いのものが、いろいろある。まだ昼過ぎだから、閑散としている。テントの中に入って、燗酒を注文した。こういう適当な場所で、適当に飲むのは、どうしてこんなに美味しいのか。熱燗というか、かなり熱過ぎるくらいだが、そこがまたいい。人間には酒があるからまだ助かる。惨めではあるが、せめてもの救いだ。