文学界2019年6月号「昭和最後の日、あなたは何をしていましたか?」という企画記事のなかの、蓮實重彦のエッセイ、本当の話かな?とも思うが、本当でも嘘でも、どちらにせよ面白かった。数年前に乗ったタクシーの運転手にこう言われたのだと言う。
お客さま、十五年の辰とお見受けいたしやすが、いかがざんしょうかと問いかけてきた。その江戸っ子ぶりの言葉遣いが妙に快く響いたので、いやといったん否定してから、こう見えても、あっし、十一年の子ざんすと調子をあわせる。すると、これはかたじけない、お見それしやしたと口にしてから、相手はしばらく黙ってしまう。そして、信号待ちをするときにふとこちらを振り返り、こう見えても、あっしは十三年の寅ざんすと言葉をつぐ。なにせ、あっしらよりお歳上のお客様をお乗せすることはまずないもんで、ついつい十五年の辰などと口走ってしまいました。どうかご勘弁願いますと丁寧に言葉をつぐ。
今年は亥年で、僕は年男なのだが、前述の云いかたに従えば
46年の亥年でございます
ということになる。わかる人ならすぐわかるか。
59年の亥年でござんす
という人なら、60歳である。
7年の亥年に存じます。
「しちねんのいどし」って云いかたがカッコいいけど、昭和なのか平成なのかわからない。昭和七年なら現在78歳、平成七年生まれなら現在22歳だ。目の前にいればわかるか。
元年の亥年でございます。
と云われたなら、その人は今年生まれたばかりだ。