ヌードルス

アメリカの禁酒法1920年から1933年まで。映画「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」の主人公ヌードルスが少年時代に殺人で逮捕収監されたのがおそらく1920年代初頭、刑期を終えて仲間と再会して間もなく禁酒法が終わるらしいから、そのときすでに1930年代。その後のヌードルスはニューヨークを離れて、ふたたび戻ってくるのは30年以上経ってからなのでラストは1960年代後半あたりか。となるとヌードルスはおそらく大体1905年前後の生まれというところだろうか。この映画は物語が時系列通りに進んでいかず、回想のようなミステリーのような夢か幻覚のような不思議な感触があるのだが、その主人公の少年期から六十代までが、最初の三十分くらいで全部出てくることになる。僕はこの映画はこれまで何度も観ていて、もはや通算何回観たのかも不明だが、性懲りもなくさっき寝る前にAmazon Primeで冒頭から30分くらい観ながら、あ、今の自分が、ヌードルスバッファローだかどこかに隠遁していた時期に重なるのだな…と思った。ヌードルスという人は少年期と二十代、それと時空を越えた六十代しか人生が無いというか、前半の最後に提示された謎を、後半のある場所で解く(しかし解けない)、という物語なのだが、だからこの映画のなかに、四十代と五十代のヌードルスは存在していない。とはいえそれは映画だからで、むしろ映画のすばらしさというか残酷さというのは、人間の一生を、若いときと老いたときしか存在しないかのように描くことができてしまうということだ。この映画をはじめて観た中学生のとき、なぜあれほど長大で冗長でわけわからなくて、それゆえに深く底なしな魅力を感じたのか。それはたぶん作品に出てくるほとんどの出来事を、これから自分自身が未来において経験するかもしれない、その予感と共に観たからだろう(抗争や暴力に彩られているギャング映画の世界なのに、なぜかそう思えた)。そんなことを考えていて、ラストのヌードルスさながらの、ふしぎな肩すかしを食らったような気分に、今なっている。