地名の流れ

たとえば、横浜、川崎、品川、新橋、東京…と文字を並べてみる。これはこれだけでストーリーである。各駅や街にちなんだ物語があるからではなくて、地名が並ぶだけですでにストーリーである。それぞれの地名にたくさんの内実が含まれているのを、今はあえて見ずに、その地名が並んだままとして、それらを見る。それらの流れを見る。

電車が走って移動しているのを思い浮かべるのではなく、各駅のディテールを思い浮かべるのでもなく、流れを見る。それはほとんど、忘れては見て、また忘れては見て、それの繰り返しに近い。関係を見るのではない。ストーリーを読もうとはしてない。単に、次に来たものを見る。そのくりかえしだ。

そこに、ある感情の流れがある。流れの形状がある。それをもしかすると誰もが思い当たる何かとして共有できる可能性さえある。

いつかそのような共主観的なものを皆で参照しながら、横浜、川崎、品川、新橋、東京…と、頭の中に文字を組み立てる日も来ることだろう。