骨付き肉

骨付き肉は、最初はナイフとフォークを使うとしても最後はかならず手掴みで口に運ぶ。レストランでも大抵それをするので、見かねた店員が苦笑まじりにフィンガーボウルなど持ってきてくれたりする。骨付き肉はそこまでして食べるべきものだと思う。骨と肉のくっついている箇所を舌と歯に感じ取りながら食べるべきものだと思う。

これは魚なら当たり前のことだし、野菜の硬い筋や皮を口内で選り分けたり、鞘のなかにある豆類を抉り出して食べることにも近いかもしれない。食べられるところと、食べられないところの境目に、舌や歯を探らせる。いわば食べられないところが地面で、そこに食べられるところが軌跡を為して点在しているのを追いかけ、歯と舌で移動しながら、ひとつずつ収穫していく。

最近は圧力鍋で煮込むことが多くなって、そのおかげで骨付き肉を食べるときの面倒くささは減った。充分な加熱のおかげで、肉と骨とが容易に乖離する。はじめから骨と肉がはなれてしまっている。これはこれで、突き詰めていけば肉料理はやがてスープの類へと変わっていくのを予感させる。肉食動物も、もし加熱の術を知っていればスープを作るだろうか。腐乱物に群がる微生物はスープを嗜んでいると言えるだろうか。