蚊帳の実物を見たことはない。蚊帳の存在を知ったのは、たぶん本とか昔話からだろうか。「次郎物語」に、出てきたのじゃなかったろうか。でも「次郎物語」は、子供の自分には退屈で、たしか最後まで読まなかったと思う。
打ちっぱなしのゴルフ練習場があったのは、実家のある場所のどのあたりだっただろうか。あの巨大な四角い緑色の網の中で、人がゴルフをしている。白い小さな球が、音もなくすーっと放物線を描いて落ちる。この人たちはああして自分らのやってることが周りの迷惑にならないように、わざわざ網の中にいるのだなと。
蚊帳を知ったとき、ゴルフ練習場はそのような風習の名残ではないかと、そこまでは思わなかったけど、網の中に入る、網に守られたり守ったりするう習性が、人にはあるのかもと、どこかで感じた、いや、そうでもない。
あの小さな白い球は、網の隙間から外へ飛び出さないものだろうかと、まるで虫の玉子のように、あれだけたくさん落ちているのだから、一つか二つは外へ零れ落ちてもおかしくないはずだった。
夜になると四角い緑色は、照明に照らされて夜の闇に浮かび上がる。それは自力で発光するかのような、周囲からかけはなれた色彩を放っていて、遠くからの眺めはほとんどSF的な景色に見えた。
じつは今住んでる場所からほど近くにも、やはりゴルフ練習場があって、夜になると煌々と照明を照らして、その明るい緑色を夜空へ浮かび上がらせているのである。ゴルフ練習場というのは今も昔も、ほとんど何も変わってないのか。緑色のネット越しに人が、ゴルフをしてる様子が見えるのだ。僕はゴルフはしたことないけど、ゴルフ練習場には、なぜか縁がある。その近くに住むことが運命つけられているのだろうか。