二十歳


一九九一年の六月が来たら僕はついに二十歳になる。二十歳だからといっても、別に今までと何も変わらないとは思うが。バイト先ではなぜか、十九歳は僕だけしかいなくて、十八歳が五人くらいいて、あとは二十歳と二十一歳が多い。厨房のあの眼鏡の人は二十二歳らしい。そしてチーフは二十三歳だ。チーフはかなり大人の雰囲気だ。やはり二十三にもなると、あんな雰囲気にもなるのかもしれない。マネージャーはたしか二十八歳らしい。でもそんなに老けては見えない。むしろチーフの方が大人っぽいくらいに見える。チーフは女にもきっとモテルんだろう。もてそうな感じだ。髪はほとんどわからないくらい軽くパーマしてるんだそうだ。金曜の夜とか休みの前の夜は紺色のスーツを着て来て、あの格好でそのまま西口の方へ遊びに行くらしい。夜遊びするには、ちょっとマジメ過ぎる感じのスーツのような気もするが、靴もあれじゃない方が良い気もするが。いや悪くはないし、まあ、それはそれでチーフに似合ってなくもない。あれはあれで、きっと女には、チーフは普通にもてるだろう。そういえば菊さんも前まではチーフと一緒に遊びに行ってたけど、今はどうしてるのやら。菊さんは、噂では三十歳を過ぎてるらしい。オグリキャップに全財産賭けて、大儲けして翌日バックれてしまった。さすがにみんな笑っていた。マネージャーすら笑ってた。あれはもう誰にも止められない感じだったからな。それにしてもいったいいくら儲かったんだろうか。もう自分の想像のはるか遠くの事のようにしか思えない。まあ僕は冴えない感じだがここにいるのは楽しい。二十歳になっても何も変わらないだろう。明日も明後日も一緒のことだ。でも二十一歳はさすがにちょっと違うのかもしれない。串畑さんとか大橋さんとか、やっぱりちょっと違う感じがするからな。それで二十三才になったらチーフみたいな人もいるんだから、まったく世の中はぼくの理解のはるか先にあるようだ。でも僕は昔からとくに、自分とか未来とかに期待も絶望もないのだ。ただ今こうしている事であまり問題ないのだ。先の事はまるで深海のように何も見えないが、それはそれでいいのだ。