TOHOシネマズ 池袋でポール・トーマス・アンダーソン「ワン・バトル・アフター・アナザー」(2025年)を観る。以下ネタバレへの配慮なく書いてるので事前にご承知いただきたい。
警察も、反政府組織も、メキシコ人移民も、誰も彼もが、迷いも揺るぎもない、変態性欲者はそういう自分を疑いもしないし、革命分子ならゲリラ活動を躊躇するなんて思いもよらぬ。警察は執念深く組織を突き崩そうとして構成員の居場所を探るし、上層階級のファシスト秘密結社は己が組織の純血性こそが重要である。
そんな誰もが、揺ぎ無いままぶつかり合うので、闘いはそのまま、弾けるような爽快なアクションで、ボールが跳ね合うゲームのようで、逃亡はハラハラドキドキで、助けてくれる支援者はめっちゃ頼もしくて、敵はどこまでも追いかけてくる。
警察のエライ人ショーン・ペンはマゾヒストで、テヤナ・テイラーから逆レイプされるのが大好きで、警察官としての使命とか倫理とかにはもとより関心がない。ただし地位と名誉への執着はあって、ごく限られた上位階級層だけで組織されたファシスト秘密結社への入会を熱く望んでいる。
最後は顔半分吹き飛ばされて、そこまで行かれても、さすがマゾヒスト、死ぬギリギリまでなんとなく楽し気に見えるところが面白いというか、もはや手の施しようがなくて、まったくアメリカ映画の悪人には、神様も救いもあったもんじゃない。
実の親子判定キットの結果がジリジリと勿体ぶった挙句、ひとまずショーン・ペンが実の父親で、しかし母テヤナ・テイラーとともに彼も親の役割を担う気がまったくないどころか、自己保身のため娘の抹殺を企てる。父が警察組織の出世を、母が暴力革命への志向を躊躇しないのと対照的に、レオナルド・ディカプリオは(ほんとうは実の娘ではない)チェイス・インフィニティの窮地を救おうと躍起になって、なのでこの映画では、ディカプリオの焦りとじたばたが延々と続く。
最近のディカプリオのキャラクターは、このノリですっかり固定化されたのか…。とにかくずっとイラついて怒鳴り散らして不安に苛まれて落ち着きがなくて、でもなんか調子がいいというか、適当で浮ついた態度で、長年の隠遁生活のおかげで、身元を証明する組織の暗号を、どうしても思い出せないってところが笑いどころ(かつ、ラスト場面との共鳴)でもあるのだけど、なんだか、面白いんだかそうでもないんだか、よくわからないまま、半ば呆れつつ、観てる側はずっと、このくたびれた中年のおじさんを見続けないといけない。
16歳に成長したチェイス・インフィニティは、ベニチオ・デル・トロの道場で空手を習っている。初登場の空手してるシーンがとてもいい。母親テヤナ・テイラーの初登場場面がこの映画のファーストカットなのだが、どちらもすごくいい。
ディカプリオは催涙ガスで燻されて間一髪だったけど、ベニチオ・デル・トロの道場と食品マーケットの店の奥に、移民たちがたくさん潜み暮らす部屋がいくつも連なっていて、まるで迷宮のように、先がどこへ続いているやら、まるで見当もつかない。移民の組織にとって、重火器の調達もままならないのだから、地下やトンネルは闘争のための重要なインフラだ。
始終パニクってるディカプリオとは対照的で、彼の支援者ベニチオ・デル・トロはひたすら頼もしい。こんな人物が、立場の弱い人々を支え救っている、そんな映画的な、記憶に残る、頼りがいのある脇役のおっさん。おかげでディカプリオは何度警察に捕まっても再び奪還され、逃げ道を提供される。
警察とデモ隊がにらみ合う。催涙弾が撃ち込まれ、火炎瓶が割れる(ヴァン・ヘイレン作戦…)。戦争だ!と言って若者らが盛り上がる。こういう映画、増えてきたなと思う。ベニチオ・デル・トロのアジトに潜む多くの住民が、さらに奥底のトンネルを伝って、別の場所へ避難しようとする。メキシコ人若者のスケボー軍団が、夜の闇を背景に、まるで忍者みたいにビルの屋上から屋上を伝って疾走する。
ショーン・ペンに雇われていたメキシコ人の謎な心変わりによる、自らの命と引き換えの救済をもって、チェイス・インフィニティはは一命をとりとめる。このメキシコ人刺客の「良心」というか「倫理」には、何か裏があるんじゃないかと勘ぐりたくなるがそうでもなくて、ゆえにこの展開はちょっと不思議な余韻を残す。
そういえば、あの修道院の尼さんたちはともかく、はじめに娘をダンスホールから救い出した組織員の女性も「ちゃんとした人」だった。警察の尋問を受けて、平静を装うことも出来ずに我が身を案じて涙を浮かべていた。そういう人物が多いほど映画は観ていて可哀そうになる。死んでいいヤツばかりだとアレだが、いい人ばかりだと気が滅入る。この映画は、「死の配分」的には精神衛生上いい感じ。
命からがらな娘の脱出は最後、砂漠の急勾配と急傾斜が連なる一本道での、ちょっと不思議なアイデアの自動車追跡劇だった。
最後にきっとお母さん出てくるんだろうと思ってたら、最後まで出てこなくて、そこは意外だった。