「PERFECT DAYS」で、役所広司が所持していたパティ・スミス「Horses」のカセットは、再生すると毎度かならず二曲目"Redondo Beach"から始まるのはなぜなのか。一曲目"Gloria"が、あまり好きじゃないのか?にしても、わざわざ事前に、二曲目まで早送りしておくのか?
カセットの音がいいというのは、おかしいような気もするけど、音の良さとは理屈ではなくて、じっさいカセットテープで聞く音楽には、なぜか独特の音の質感があるのはわかる。音源の品質にくわえて、出力へ至るまでの経路のせいで、結果として新鮮に聴こえるのだと思う。だから機器や環境にもよるだろうし、というかほとんど主観的な感覚だと思う。ぼくも若いころは、平凡なラジカセで大量のカセットテープを次々と再生していたけど、音が悪いとか、そんなことはまるで考えなかった。そんなことに音の価値が左右されないような音楽ばかりなのは、今も昔もそうだが、むしろ自分は今のほうが、些細なことを気にするぶんだけ、聴く態度がセコくなった。
ところでパティ・スミス「Horses」は、収録曲が追加されたスペシャル・エディションがあって、なかでもとりわけすごいのは、ライブ録音されたThe Whoのカバー曲"My Generation"だろう。これが70年代と90年代の2テイクあるのだが、比較する気も失せるほど、どちらもすさまじい、というかものすごい。ヤバさとは、こういうのを指して言うのだ。パティ・スミスという人は、歌い始めるや否や、人ひとりの運命など簡単に変えてしまうような力をもつと言っていい。