「シビル・ウォー」終わって、錦糸町から日比谷へ移動し、TOHOシネマズ日比谷で黒沢清「Cloud クラウド」(2024年)を観る。
転売稼業で儲けた人間が、そのせいで被害にあった人の恨みを買った挙句、復讐される…という物語は「化けの皮」で、この映画に出てくる人たちは、どう考えてもそういうものではない。
前半の明らかに不穏なホラー展開。森の不気味な静けさ、村人や警察の態度、苛立つ菅田将暉、彼を見つめる古川琴音。飄々とした態度のバイト奥平大兼。ところがそんな雰囲気が高まることもなく、退職した工場の社長である荒川良々の、以前から不吉さの影に見え隠れしていた姿が露になり、散弾銃を構えて菅田将暉に銃口を突きつけ、やがてレザーフェイスならぬ布フェイス野郎やら町工場の店主やら昔の先輩やらが、一丸となって菅田将暉を襲いにやってくる。
この、全員がなぜか一緒になって、敵の1グループとして菅田将暉のもとにあらわれるというところがポイントである。ポイントというか、何のポイントかさっぱりわからないけど、この映画は、なぜかそうなのである。それぞれの理由で菅田将暉に恨みはあるが、互いに何のつながりもないはずの人たちが、唐突に集団を形成し、一丸となって主人公を殺しにやってくるのだ。
最初の犠牲者は、襲撃者の彼らと偶然に出会った猟師である。映画はまだ中盤に差し掛かったばかりで、このあとどうなってしまうのか展開の予想がつかない、その時点で荒川良々がいきなり発砲、撃たれた猟師の身体が紙人形のように後方へ吹っ飛ぶのを見て、あ、マジで、ほんとうに殺しちゃう映画なのか、と思う。
転売稼業の手伝いで雇ったバイトの奥平大兼は、なぜか色々わかってる風でほとんど動じる気配も見せず、拉致された菅田将暉を助け出し、謎の組織から調達した銃器を彼に提供する…。登場した直後から豹変したかのような彼は今やまるで、百戦錬磨の殺し屋とかスパイとか兵士みたいだ。こうして二人は、迫りくる敵陣とはげしい銃撃戦を繰り広げる……。
とにかく始まってしまったものは仕方がないので、二人は一人ずつ敵をやっつけていく。素晴らしい連携プレーである。ライフルは遠方から狙う、散弾銃は装填時が反撃のチャンス、拳銃は近距離で相手を仕留める、使われ方がちゃんとしてる。荒川良々との最後の対決、そして辛くも窪田正孝の息の根を止め、すべての敵をやっつけることができた。
いや、敵はもう一人いた。恋人の古川琴音が背中に拳銃を隠し持ち、笑顔で菅田将暉に近寄ってくる。抱擁してそのまま彼に拳銃を向ける。彼女の狙いは最初から金だった。本性をあらわした直後、奥平大兼に射殺された彼女の亡骸を見て、菅田将暉はさめざめと泣く。
で、これからどうします?となって、それにしても奥平大兼は、自分が庇護するからこれまで通り転売稼業を続けろと菅田将暉に勧めるし、こんな事態でいまさら転売なんて、そんなこともはやどうでも良くない?とも思うのだが、おそらくそうではない。
転売という、ちまちましたセコい商売の要素と、襲撃や殺人の場面が、最初から最後まで平然と(混ざり合わずに、別世界のように)同居しているのが、この作品のものすごく奇妙なところなのだが、その奇妙さをずるずると引きずりながら、この映画を観る者は、その妙にきちんと見ごたえのある銃撃戦を、黙って最後まで見続けてきたのだ。
そもそもなぜ本作のタイトルは、クラウド(Cloud)なのか。その言葉が、ローカルではなくてインターネット上にあるリソースを利用したIT系運用手段のことだとするなら、この映画の何がクラウド(Cloud)なのか。菅田将暉は、壊れたPCから物理のハードディスクを抜き取って、(自分の転売稼業も)これさえあればなんとかなる、と言ってた。ぜんぜんクラウドじゃない。これみよがしに、それとは逆の態度である。
ならば、やはりあの銃撃戦の相手。あの連中こそクラウド(Cloud)ってことか。しかしそれは、自分で書いたのにどういう意味だかわからない。たとえば匿名性だとか、クラスタだとか……でもそんな無理矢理、解釈みたいなことを書いてもしょうがない。
転売なんかどうでも良いのだし、恨みや復讐も、たぶんどうでもいい。菅田将暉はさんざんな目に合い、恋人も失った。信じていたものに裏切られたことでダメージを負った。しかし仕事は続けられる。残されたデータがあり、頼もしい支援者の奥平大兼がいてくれるからだ。
何がなんだか、さっぱりだけど、とにかく傍らに奥平大兼がいてくれる、その安心感だけはたしかだ。この一連の過程を経て得られたのは、それだけかもしれない。どうもこの先には「地獄」が待っていそうな予感もするけど、なぜかわからないけど、この映画を観る者はいつの間にか、とにかくはじめの地点から来て、気づいたらそんな場所にたどり着いてしまったのだから、ここから出来ることをするしかない、という境地へ、連れていかれてしまう。
連れて行かれるしかない。それかきっぱり全否定するか、どちらかの選択肢しかない。