2011-01-01から1年間の記事一覧

きちがい水

今日は、身体のために、きちがい水を飲まないことにしたのだ。たまには、そういう日があってもいいだろうと、妻もしきりに云うのである。私もそれは、おぉそうだそうだと、何度も首を上したに振ったのだった。きちがい水を飲まないで床についても、ほんとう…

傾斜

隙間から少しだけ外が見えた。下は川だ。電車は今、鉄橋を渡っているのだ。そのとき電車がやや急に停止して、乗客のほとんどが前方へ押し出されそうになり、掴まるもののない幾人かは前方にいる人の背中めがけて倒れ掛かり、手摺りに掴まっている人も咄嗟に…

川面

満員電車で次の駅から乗ってきた人に圧されて、車内なかほどまで一気に押されて、車両の連結部の方まで流されてしまって、奥まったところの手摺りに掴まってそこにじっとしたまま、ふと明るい方向に目をやると、前にいる人と人の隙間から、少しだけ窓の外の…

五十歳

しかし、あれから十年が過ぎたとは驚きだ。今日、ついに五十歳になった。あっという間だったな。この十年、何をしてきたのか。何もない。まったく何も変化なしである。自分が五十歳だという実感はまるでない。いや、あるにはある。五十歳の誕生日を迎えたの…

油絵

絵を描くというのはまず何よりも、その描くという行為の結果が自分にとってすごく新鮮でリアルな感触として跳ね返ってくるようなものでなくてはいけない。いけない事はないかもしれないけど、少なくともそうでないと楽しくない。 絵を描くことがつまらなくな…

久しぶりの雨のような気がする。今はもうやんだかもしれない。明日は降るのかどうか。天気予報では午前中のみとの予測みたいだ。まあ降っても晴れても曇りでもかまわないや。雨なら久しぶりに雨をじっくりと見たいな。雨の降っていることをあらわす縦線が画…

彼女

まだ学生の頃に橋東が付き合ってた彼女は、僕も何度か会ったことはあるが、もう顔は忘れたし、名前もおぼえてない。ぼやっとした雰囲気だけおぼえている。それほど美人ではなかったと思うが、悪くもなかった。橋東が付き合ったのもわかる。すごい痩せていて…

橋東の車

橋東の乗っていた車は、紺色の古いマーチのマニュアル車で、その車の助手席に乗ると、運転席にいる橋東と、橋東の身体を支えているシートと、橋東が握っているハンドルと、左手の下にあるチャチなパイプ椅子の足一本みたいなシフトギアと、足元に玩具みたい…

橋東

ガリガリの痩身なのに、体脂肪率が60%の人間とかって、実在するだろうか。つまり、全身が、中トロみたいな肉質である。それは市場で高値で取引されてもおかしくないような、巨大な出刃包丁で切っても、血すら出ないような。脂肪を吹いた、ピンク色の断面が、…

Attica Blues

おとといはでかけた。昨日もでかけた。今日は家に居た。私はいまいったい何をやっているのか? 深沢七郎の「笛吹川」読了。まさに、引きずり回されたという感じ。これはほんとうにすさまじいな。いったい、どういうわけで、このようなものが出来上がってしま…

駅から水原団地行きのバスに乗る。車内は空いていた。最初は街の中を走っていたが、次第に建物が減って、やがて何もない田畑ばかりの景色になった。それから次第に、急にとってつけたように住宅地っぽい雰囲気になった。そのまま終点の、水原団地のバス停に…

田舎の音

小さなスーパーマーケットや、自転車置き場や、公園や、いくつかの商店が並ぶ区画の先は、住宅地が立ち並ぶ区画で、その先をさらに歩くとまた風景が変わって、畑と雑木林ばかりの、何十年も昔から何度となく舗装を重ねられてでこぼこした細い道が続く。畑と…

基底材の準備

カップ一杯の石膏を水で溶いて、そこに手早くジンクホワイトとジェル・メデイウムを加えてよくかき混ぜる。ボウルに半分ほどの量の、とろみのある真っ白な液体が固まらないよう常に攪拌しながら、床に置いた30センチ×45センチのシナベニヤ板の上に持ってきて…

1996年頃・石膏

石膏を水で溶き、それにジェッソの白とモデリングペーストを加えてよく混ぜ、乾かないうちにシナベニヤの表面に薄く延ばして満遍なく塗布する。石膏を加える理由は、キメ細かく硬質な表面を得たいため。とくに変な欲を出さず、大人しく何も考えずに塗布する…

麦秋

杉村春子が、こんなことを言って、怒らないでね。と前置きしつつ、私はもしあなたのような人が息子の嫁に来てくれたら、どんなに良いかと思っていたのよ。と口にする。それを聞いた原節子は、おばさん、私のこと、そんな風に思っていてくれたの?と、聞き返…

十月

気候は曇りだが、さらっと乾いた空気が快適で、本当に過ごしやすい季節になった。風邪の調子はまあまあ。食欲もあるし、お通じも快調。風邪であることさえ度外視すれば健康そのもの。午前中は読書。午後も引き続き読書、と思ってたらついうっかりそのまま寝…

風邪

喉の痛みと咳。あと鼻の調子も悪い。げほげほずるずると、オフィスでひとりやかましく、人から「風邪ですか?」と聞かれてしまう程度にはわかりやすく風邪の人っぽい感じになってしまった。でも身体のしんどさや苦しさはそれほどでもなく、わりと普通にやっ…

病床

風邪の引き始めなのでひとまず今夜は早めに休ませていただく。風邪を引くと、なんだかよくわからないけど、何か、まったくあたらしい物語が、今から始まるような気がしないか。この僕が主人公で、ぐったりと弱った姿で、身を横たえている。それがファースト…

グラスの底

ぐっとあおって、グラスに残った酒を全部飲み干す。そのまま両目を寄り目にして、口元にあてたグラスの底をじっと覗く。底のガラスの湾曲した光と影の世界に自分全体が入り込んだような気分になって、なおもそのままじっと、目でうねうねした模様を見続ける…

手続き

吊革に掴まる。電車が動き出す。じょじょに傾斜がきつくなる。車両が完全に上を向く。足が床から離れる。体重の重みが腕にかかる。全員が、腕一本で吊革にぶら下った状態。あちこちから呻き声や苦しげな声が聞こえる。なおもゆっくりと、電車は容赦なく登る…

危機

イエスの「危機」を久々に聴いたら、これがやっぱり素晴らしいとしか言いようがない。正直、いまさらイエスの「危機」が素晴らしいとか、わざわざブログに書くなんて愚の骨頂だという思いもあるが、良いものは良いのだから仕方がない。他に書く事もないしな…

よく晴れている。日差しの下にずっと居ると体内に熱がこもるが日陰の空気は冷えた水のように冷たい。外を歩くのはとても快適。でも油断するとすぐ風邪引きそう。吸い込んだ冷気が鼻の奥を突き上げて痛みを伴うむず痒さになってくしゃみになりそうだがならず…

Joe le Taxi

夕方にはすでに暴風が吹き荒れていた。ビルの谷間に吹き降りてくる風の威力はすさまじく、乗っていたタクシーはまるで荒波に揉まれる小舟のように揺れた。車に乗りこんでからずっと運転手は余計な世間話とか一切喋ってなかったのに、まるで悪意が込められて…

nell

混乱の首都圏であったが、タクシー等乗り継いで運良く比較的順調に帰宅できた。そしていまは眠い。ごめんなさい今日は先に休ませていただきます。

苦労

あなたがよく口にしていた「愛」があるかないかは、世界から感受しうる情報の量や密度や強度において、クレーの実物の絵と印刷物ほどの違いが生まれるものなんだよ。 それからやっぱり、大変でもラカンを読むことを忘れないように。苦労して読むということは…

秋味

風の強い日。気圧のせいか、あるいは誰かの不幸に引っ張られているのかわからないが、朝から軽く貧血気味のような気がする。しばらくすると普段どおりに戻る。日差しは出たり翳ったりを繰り返す。午後になって、まるで安っぽいイラストのように、雲の切れ間…

高田馬場の頃

高田馬場駅の改札を出ると、日差しを遮られて薄暗く排気ガスにまみれたような高架下の、さほど広くもないところをたくさんの人々が行き交っていて、ごみごみ、ざわざわとしていて気忙しい。右手の階段を下ると東西線乗り場につながって行き、その入り口へも…

三遊亭小遊三

あまり書く事も思いつかない。九月というのに相変わらずまだ暑い、などと書いてみるくらいか。本を読むのも、半月くらい前から捗らなくなってきたが、まあ別に、捗らなくてもかまわないのか、と思って、そのまま適当なペースで読んでいる。今日は高田馬場で…

武蔵小杉であらかたの乗客がどやどやと降りていった。次の停車駅は中目具である。いま車内はすいている。僕は吊革に掴まっている。目の前の七人がけの座席には一人か二人しか座っていなくて、僕の立っている前も空いているが、次で降りるのでそのまま立った…

循環バス

駅についた。バス乗り場を見るとちょうどバスが停まっていた。乗れそうだ、ラッキーと思って歩き出すと同時に、後部の電光掲示に光っていた乗降中の文字がふっと消えた。あ、と思ったら、乗降口がすっと閉まり、エンジンがかかって、バスは発車すべく車体を…