暑くもなく寒くもなく、丁度今くらいの気候が一番快適だと思うが、しかしそう思っているうちに少しずつ肌が乾燥してきて、いつの間にか唇や手足がガサガサになってしまう。仮にもしこの時点でまだ、ビタミンというものを人類が発見していなかったとしたら、おそらく僕は冬が近づくたびに、必ず唇や手足はこの時季ガサガサになるもので、でもなるべくそうならないためには、体力を付けたり、規則正しい生活をこころがけたり、健全な精神を保つようにしたり、神に祈ったり、パワースポットに行ったり、そんな心構えで出来るだけダメージを少なめに凌ごうとしたかもしれない。でも今はそうとは違って、生物に必要な栄養素としては、炭水化物、タンパク質、脂肪とあり、さらに、それ以外のさまざまな有機化合物としてのビタミンと、無機物としてのミネラル。こうして僕はいまや、みずからの代謝系機能を栄養成分の任意摂取によって健全に機能すべくコントロールできるのだ。ビタミンの発見。あれからもう既に、百年余の月日が流れた。ビタミンはまさに、20世紀って感じがする。そういう風に悩むことから、もう逃れられなくなってしまったわけで。