2007-01-01から1年間の記事一覧

「殺しの烙印」

DVDにて。うーん。これは破格にすごい。相当な量の映画的な出来事たちがみっしりと詰まっていて、とても時間が一時間半とは思えない。普通の90分の映画が含んでる情報量の2倍くらいある気がする。「ハードボイルド」と云っても、イメージされたスタイ…

「松ヶ根乱射事件」

DVDにて。真っ白な雪原に倒れている女性を俯瞰したファーストショット。倒れている女性を発見した小学生くらいの男の子が傍に近寄ってくる。しばらく見下ろし、やがてしゃがみこみ、動かない女性の胸元をまさぐり、続けてスカートの中にも遠慮なく手を入…

TVでF1観戦の直前に記す

1センチくらい削り出して露出させた色鉛筆の芯を誤って折ってしまった場合、その折れた芯を捨てる気にはどうしてもなれないものだ。だから小皿に放り込んでおく。これを何とか有効利用できないだろうかと思っていたのだが、今日何気なくステッドラーのコンパ…

「おとうと」

岸恵子と川口浩の掛け合い漫才みたいな軽快なやり取りはなかなか良い感じだ。弟のような年下の、他愛も無い内容で気兼ねなく軽口を叩けるような対象を相手にした女性の表情や仕草。岸恵子のそういう芝居を堪能したいならこれ!って感じだろうか?田中絹代と…

「百年恋歌」

DVDにて。60年代のパートが大変素晴らしかった。殊に冒頭のビリヤードのシーンは、大変含みと奥行きのある、たっぷりした余裕の構えで、ほとんど出来事らしい出来事は起きていないかのようで、でも実は瞬間瞬間に確実に何かが揺れ動いているような、簡単…

「ラウンド・ミッドナイト」

CSにて。さっきたまたまやってたので観始めたら最後まで観てしまった。。デクスター・ゴードンの姿やドアップの表情を見てるだけみたいな映画である。それだけで満足できるほど、この映画のデクスター・ゴードンは素敵である。恐ろしく長身で痩せているが…

システムとドライビング Part2

前回の続き。…肉体という物質は、古来から人間と動物に根本的な違いはない。ギリシャ人と現代人にも肉体の物質的差異はないだろう。肉体とはたとえば一定量を超える衝撃を受ければあっけなく壊れて潰れてしまうような柔らかい有機物から成る構造体に過ぎない…

「F1グランプリ 栄光の男たち」(システムとドライビング Part1)

Windowsから古いシステムにエミュレータを使ってログインしたりすると「21世紀の真ん中に前世紀の真っ黒い落とし穴が開いた」ような錯覚をおぼえる。というと大げさだがまあそんな感じもなくはない。とはいえ技術は昔の技術を受けて改良され、それに上塗りさ…

恋の味をご存じないのね

特定の何かをじっと見つめていると、それが何なのか却ってわからなくなるという事はよくある。「映画」というものがあって、それはきっと、何か目くるめくときめく夢のような特別なものなのだと思うが、でも空気の淀んだ薄暗い部屋の発光するモニタ上でささ…

「2/デュオ」

上野ツタヤに突然VHSが入荷されたのでレンタル。西島秀俊と柳愛里が仲良くカップルである。ずーっと回しっ放しになっているカメラの前で、「あ、お菓子買ってきて」「どんなの?」「なんでもいい」「甘いのしょっぱいの?」「どっちでもいい」みたいな会…

「西瓜」

面白い。相当、AVだけど…。しかしツァイ・ミンリャンという監督ってどの作品にも共通する間合いと呼吸の感じがあって、…本当に色々な事に挑戦するものだと思いながらも、ああやっぱり本作もツァイ・ミンリャンだなあとも思う。 水不足で断水が続く真夏の台…

車を誘導する人

映画「秀子の車掌さん」には、狭い路地でトラックが方向を変えるのに難儀してるところに出くわした高峰秀子が、車掌らしい手慣れた手つきでオーライオーライと誘導してあげるシーンがある。(というかオーライオーライと手を振ってる高峰のバストショットだけ…

「秀子の車掌さん」

CSにて。バスが遅い。ゆっくりとこちらに向って走ってくる。時速20kmくらいか?素晴らしい遅さで、ぶーーんと近づいてくる。1941年の日本の田舎の風景。(半年もしないうちに真珠湾攻撃するのだ。)真っ白い未舗装道路で、周りはぽつぽつと建物が立…

「風の中の牝鶏」

とにかく、生きるためにはなんでもしなければならない、という状況下があった。というか、今もある。生きるのは楽じゃない。それは思った以上に大変な事であった。生きるためには相当色々と努力も配慮もしなければならない。それなりに稼がなければならない…

「水で書かれた物語」

DVDにて。正直なところまあ、特に面白くもつまらなくもないという感じでしか感じられなかったのだが、しかしこの時期(1965年)に、ある人が、ある状況下で、このような作品を作らなければならなかったのだ、という確固とした理由があるのだろうと想像…

「長江哀歌」

日比谷シャンテにて。…ものすごい映画であった。冒頭のあの豊饒な暗さを含んだ労働者の群集をカメラがぐるーっとパンしつつ捉えるファーストショットで、とんでもない作品だと思った。で、常識を遥かに越えた様な高さに架かっている橋のちょっと下に、監督名…

「青春残酷物語」

DVDにて。1960年(昭和35年)公開の映画だ。主人公の川津祐介は1935年生まれで撮影当時25歳くらい、桑野みゆきは1942年生まれで当時18歳あたりだろう。父親役は劇中、影が薄いが、おそらく大正〜昭和初期生まれの設定であり太平洋戦争を…

「秋津温泉」

DVDにて。冒頭からどのシーンも非常に手間が掛かっていて、かつ美しい撮影で、戦時下の田舎の温泉宿の感じとかが非常に生々しい。敵機の飛行機雲が見え警報が鳴り、空襲を恐れて汽車の荷台に居た乗客がさーっと蜘蛛の子を散らすように汽車を降りて田園を…

実存主義と思い込みと私

「世界はこんなふうにも眺められる | Web草思」 の保坂和志のエッセイ9/27更新分を読んで…まあ僕の人生において、僕なんかは自分の中にもう抜き難く存在しているのが「実存主語的」文学観であり美術観であるなあと思う。っていうとものすごく偉そうだ。全然…

「父ありき」

僕はやはりこの手の物語には弱い。話の流れに激しく感情を揺さぶられて映画それ自体を突き放してどうこう考える事ができない…。まあある意味、幸せな体質なのであろう。しかし小津映画にしか無い不思議な緊張感というのがあって本作にもそれが横溢しているの…

「青空娘」

[rakuten:cinema:10073670:image] ここで試されているのは、とにかくどれだけ色んなものを振り切って走る事ができるのか?という事なのだと思った。屈託も感情もべたつきも絶対に生じないような徹底的なスピードを第一優先とした場合、登場人物というのはす…

「楽日」

DVDにて観る。ほとんど客のいない映画館を舞台にして、びっくりするほどの長回しが延々続く。映写機の音とか、人が動く音とか、そういうのだけで、動きらしいものも声もほとんどない。映画の音や声だけがうつろに鳴り続けている。しかし、とにかく起こる…

公衆電話

増村保造の「青空娘」。ものすごく面白い。また後日色々書くが、取り急ぎ面白かったという事だけ。 高校時代の先生が若尾文子に電話するところで、沢山の公衆電話に人々が群がってるシーンがあったが、やけに懐かしかった。「青空娘」は1957年の映画だが…

「稲妻」

これは今まで観た成瀬の中でもかなり素晴らしい一本だと思った。ある作家の仕事にはまって連続して体験するのは楽しい事だが、一時の熱狂がやや醒めてきて「とりあえず手に取れる範囲の主要作品はあらかた観てしまったし初体験としては一巡したなあ」などと…

「卍」

薄暗くて全容のよくわからない空間で、如何にもな感じのおっさんの前で、岸田今日子が起こったこと全てを告白する。という回想形式で映画が進む。暗い空間の中に岸田の着ている着物の柄とか髪の色が浮かび上がっており重厚な感じが充溢している。 まず岸田今…

「LIFE-fluid,invisible,inaudible....」坂本龍一+高谷史郎

新宿ICCにて表題のインスタレーションを観た。(Website)これはとても素晴らしい、と云うしかないだろう。…会場に入って暗幕の向こうに展開している空間を見て、思わずはっとするようなキレイさだ。 水らしき液体の張られた四角い底の浅い水槽が3×3でグ…

「8月の濡れた砂」

うわーこれはキツイなぁと思いつつ、それでも何となくそれなりに面白がって最後まで観た。面白さがほぼ、当時の風景や風俗の感じとかあとはクルマとかそのへんくらいでしかないが。…ヨットで海に出てからのとかは結構いい感じだけど、しかし公開されたのが1…

「ネオリベラリズムの精神分析」樫村愛子

「強さ」とは「強さ」それ自体でしかない。人間が、強く生きている。というときの強さとは、単に物体が落下しているとか、車が最高速度で走っているとか、そういう事と同等の状態の説明でしかない。人間が「モノを考える」という事と「強く生きる」事とは、…

「女の中にいる他人」

自分の場合、映画鑑賞でも何でもそういう嗜好傾向があるのだと思うが、ある区切られた枠の中で整然と秩序付けられた事象の事の成り行きを見晴らしの良いところから好きなだけ観察するのが好きなのだと思う。なので、こういう家庭の有様を見続けるというのは…

「二十四の瞳」

この私の可愛い教え子が殺されていく。私の子供たちが奪われて消し去られてしまう。この私のありったけの、どこまでも惜しみなく降り注いだ筈の思いが、愛情が、全て濁った泥水の底に打ち捨てられていく。その悲しみと怒りを誰がわかるだろうか。これほどの…