下北沢〜新代田


久しぶりの下北沢だが、何年ぶりに来たのかおぼえてない。それにしても、ものすごく若者な街である。駅周辺が、一個の学園祭みたいな感じである。というかむしろ学園祭というものが、こういう街の在りようを擬態しようとしているのかもしれない。若者っぽさにも色々あるが、若者っぽい街は、べつに嫌いではない。それはたぶん立ち並ぶお店に、それぞれ個人経営の感触が強いからだろう。もちろんとくに駅前などは所謂チェーン系とか会社系の店も多少はあるけど、通りによっては、そういう店のわかりやすい看板や出入り口ではない、個別なそれぞれのやり方の一軒一軒の集合で、全体的に不揃いででこぼこした感じの風景になって、まあ、チャらいと言えばチャらいのだが、とりあえずそういう感じがいいのだろう。とはいえ別に、チェーン系とか会社系の店やネオンも嫌いではない。単に、店が多くて雑然と林立しているのが好きなのだろう。


新代田のfeverで「Yasei Collective Live Tour 2017 "FINE PRODUCTS"」出演はYasei Collectiveの他、WONK、MONO NO AWARE、ceroの荒内佑がDJという、かなり期待できる感じのliveへ行く。


mono no awareというグループはまったく知らなくて、当日出掛ける前に家でアルバムをざっと聴いただけで、おお、けっこういいじゃん、と思った。このバンドがオープニングで今日聴けるなんて楽しみだと。それにしても、こういう風にはじめて聴くバンドが、一聴して普通に良くできたいい感じの音だというのは、最近珍しくもない事かもしれないが、よく考えると凄いことだと思う。変な例えだが、適当に入った店の料理がものすごく美味かったとか、偶然出会った人がものすごくいい人だったとか、そういう幸運との出会いを、とくに珍しくもない、ということなわけだから、これはもうきっと、僕のような年齢の人間から見たら、音楽の全体的なレベルはずいぶん底上げされて、つまりその一端を見ているのかな、とも思う。ということは、僕のイメージする程度の音楽に出会うのは、僕が考えてるほどには難しくはない、ということなのかもしれない。ヤセイもwonkも、こんなグループは、少なくとも僕が高校生の頃には、絶対にいなかったではないか。いや、いたかもしれないけれども、こんなに小さな店で簡単に出会えるほどではなかったではないか。それが今や、こんな組合せだなんて、すごい話ではないか。まあ、何をもってすごいと言うかはさておくとしてもだ。


なんとなく昔のことを思い出したのだが、高校生のとき、たとえば美大を目指してデッサンとかの練習をしているとして、高校生の自分が描いたその絵は、まだ未熟で稚拙で、更なる訓練が必要なレベルなのだが、しかしそれでも、たとえば自分の親の世代で美大に進学したような人たちから見たら、まさに「最近の美大を目指す高校生の技量はほんとうに高い」みたいな水準には見えてしまう。それくらい四半世紀とかの時間的な開きは大きくて、個人差はあれども全体的な技術レベルは猛烈に上がっている。それと似たような状況を、今僕が、たまたま聴いた音楽に見ているような気もする。


ただし、アカデミックなデッサンの技量とかを越えた、まあ大きく言って、絵を描く力というのは、そしておそらくは音楽の技量やセンスも同じだろうが、全体の中でほんの一握りの、もの凄い人のもつ力は、他とは比較を絶して飛びぬけているので、それは百年前だろうが今だろうが、そのくらいの時間に風化せずにそうなので、ここでの話は、それ以外の有象無象のレベルの、たかだか何十年くらいの時間の変化に影響を受けてしまう程度のレベル差の話に過ぎない、とも言えるかもしれない。


mono no awareは男3女1の四人組で、Vo+GとG、B、Dr編成で、オーセンティックなギターサウンド。音的にはさわやかで叙情的で気持ちいい。曲もいい。詞は韻の踏み方など特徴的。何となくアイロニカルで諧謔風味な、そこは良くも悪くも、という感じもしたが、ライブは抜けの良いパワーのある演奏でひたすら気持ちいい。今後も引き続き聴いていきたい感じだ。


Wonkやはり素敵だ。僕はwonkが好みなんでしょうね。とてもいい。前に観たときよりも、バンドサウンドの骨格感があらわになっていたというか、余計なものが取れたような、少しスリムな演奏に感じられた。客は最初わりと静かで、後半は普通に上がっていったが、個人的には前半3曲目くらいまでの感じはとくに好きだった。しかしwonk、ひたすらいい感じだ。


Yasei Collectiveは驚くほど、中位〜ゆっくり目なテンポでジャム的に延々聴かせる展開が多くて意外だった。しかし要所要所で盛り上がるキャッチーな曲も挟まる。両方の要素を持つところが、Yasei Collectiveの強みであるなあと思う。演奏に関してあらためて感じたのは、ドラムの特徴的な感じが前にあって、それを他の楽器が土台となって支えているような構成というか、一般的にリズムが吸う息と吐く息の両方で出来ているとするなら、Yasei Collectiveのリズムはドラムのノリがわりと吐く息の割合が多く、吸息に回収されない粒が、大きいのから小さいのまでひたすら空間のあちこちに咲きまくって埋め尽くされてしまうのを、他の楽器が全体的に背景になって支えつつ処理しているというのか、もっと単純化して言うと、根本のリズムをキープしているのがドラム以外の楽器たちで、その上でドラムが可聴的なもう一つのリズムを伸ばしたり縮めたりしているというか、ある意味、いまどきのドラムでありながらも、昔のwhoのキースムーンとかexperienceのミッチミッチェル的な装飾的な感じもあるというか。その例えだと、さすがに古過ぎるが…。


荒内DJ時はひたすらshazamしまくった。知ることができた何曲かは、明日以降もしばらく聴くだろう。というか、いやこれなら前にも聴いたことあるでしょ、というのも少なくないが、でもなかなかこういう風にあらためて良さを教えていただく機会がないと、自分の耳だけではスルーしたままになってしまう部分も多いし、一度でも、良いかもと思ったら、そのことでそれを含む全体が、昨日と今日で違って聴こえてくることがある、というのもまた事実だ。


しかし3時間半スタンディングは、もはや体力的にキツイと云わざるを得ない。さすがに、年齢を感じなくもない。座って酒を飲みながら過ごせる店ならその方が楽だが、それよりもやっぱり音が大音量でドカンと出てる空間の方が好きである。だからそこはまあ我慢するしかない。でも仮に追加料金で「椅子席」と「飲み物持込可」が出来たら、それはたぶん、買うなあ…。