北風

夜になって、厳しい寒さになった。冷たい風がすごい勢いで建物の間になだれ込んできて、人々のコートの裾や長い髪をばたばたと際限なくはためかせて、外から地下へと下るエスカレーターの先までその風は入り込んでくるので、左側に立っている人のコートや上着が風で暴れて、右側の歩いて降りる人たちの邪魔をしていた。急ぎ足で引っ張られてるキャリーケースの立てるカタカタいう音が硬くて、まだ冬だなと思った。しかしこんな寒さにももう先が見えているのを誰もがわかってて、誰もがどこか楽観的な雰囲気をもって、まるで舟の帆を向けるように、冷たい風の柱に各々自分の身体を立てて歩いている。