2023-02-01から1ヶ月間の記事一覧

エージェントA

我々は戦場にいる。上官が叫ぶ。ここにいる百人のうち、敵の陣地の先へ辿りつく者が、最低でも五人いれば良い。残り九十五人は戦死したとしても、五人が生き残れば、この作戦は成功である。 突撃する私が、その五名になるのか、残り九十五名なのか、これは予…

水路

土上に、水が流れて、やがて水路ができる。その水路は、水が自らの力と意志で築いたものではない。水はひたすら土の凹凸や硬軟の影響を受けつつ、可能な行く先に導かれて流れた。しかしだからといって、土が土の力と意志で水路を築いたわけでもない。土は水…

まわり道

ザ・シネマメンバースで、ヴィム・ヴェンダース「まわり道」(1975年)を観る。素晴らしいのだが、何が素晴らしいのか説明できない、このダラダラと、ぽつぽつと話しながら、そこいらをほっつき歩いてるだけの、四人か五人くらいの男女。そんな登場人物たちの…

私は最悪

Amazon Primeでヨアキム・トリアー「私は最悪」(2021年)を観る。悪くはないのだが、期待したほどではなかったかな…との印象。レナーテ・レインスヴェ演じる主人公は、他の登場人物から批判されたり糾弾されたりはしないのだが、たぶん本作を観る観客からはあ…

紐帯

西川アサキ「魂と体、脳」を読んでいる。「支配的モナドの出現=実体的紐帯」という出来事を実際にシミュレーションしてみよう…というところ。十年前にも読んでるはずだけど、全然おぼえてない。そして、難しい。これは備忘のつもりで書いているけど、ところ…

冬・スズカケノキ

真冬の小石川植物園は、葉を落とした木々のせいだと思うが、木々と木々の間がすっきりとしていて、なんだか園内全体の樹木が少し間引かれたかのような、妙に風通しの良いような、空間全体が緩く広がったような雰囲気をたたえていた。 いつものスズカケノキも…

地名の流れ

たとえば、横浜、川崎、品川、新橋、東京…と文字を並べてみる。これはこれだけでストーリーである。各駅や街にちなんだ物語があるからではなくて、地名が並ぶだけですでにストーリーである。それぞれの地名にたくさんの内実が含まれているのを、今はあえて見…

分業

ここ数日間だけに過ぎないけど、ヴァイオリンとピアノだけの器楽曲とかを連続して聴いていて、そのあとふいにジャズとかを聴くと、ジャズ固有の機能性というか目的性みたいなものがはっきりと感じられる。つまり主にベースとドラムの担ってるもののことで、…

自転車の女性

また西川アサキ「魂と体、脳」を再読している。今読むとまた、全然受け取るものが違う。しかしそう簡単ではなくて、数日前からずっと第二章あたりまでを何度も何度も行き来して、いくつもの要素を頭の中に何とか配置させようと躍起になっている。 自転車に乗…

ヴァイオリン・ソナタ

ドビュッシーのヴァイオリン・ソナタの演奏を聴いた。それは収束と拡散を断続的にくりかえしながらもつれ合い響きあう二つの旋律なのだが、同時にそれがドビュッシーのヴァイオリン・ソナタと名付けられたある規範に対する挑戦というか試みでもあるようだっ…

海辺のポーリーヌ

ザ・シネマメンバーズで、エリック・ロメール「海辺のポーリーヌ」(1983年)を観る。 ウソかもしれないことを悲しむのはやめよう。その反対の事を信じよう。そうすれば、二人とも幸せでしょ。そうだね。 ポーリーヌとマリオンが最後に交わす言葉は、こんな感…

シンディ・ローパー

youtubeを彷徨っているうちに、なぜかシンディ・ローパーのライブを曲を追って見てしまう。2004年のステージを収録した「Live at Last」は、DVDなどでリリース済みの音源らしいが、僕ははじめて観た。 シンディ・ローパーってちょっとドイツ系?というか、そ…

Sensitivity

ラルフ・トレスヴァントの「Sensitivity」(1990年)。ミシェル・ンデゲオチェロのカバーを聴いたのは2018年で、もう5年も前のことか。最近になっていまさら元曲を聴いているのだが、まさにジャム&ルイスの曲という感じ。というかヒューマンリーグ「Human」の…

内面化

理解しようとするな、理解して、腑分けして、内面におさめようとするな、そんなことをしても、何の意味もない。あなたはそれをすることで、自分の苦しみが減らせると思っている。それはたしかに、そうかもしれない。でも、そうだとしても、あなたの理解や内…

運が良い人か、そうでもない人か、採用のときそれを知りたいと思う。あなたは運が良い人ですか?すなわちあなたが、いつまでもずっと、あなたとして同一でいられる、その維持性に対して、意外に脆いのか、そうでもなく淡々とそのままなのか、それを知りたい…

ネギ

スーパーマーケットのレジ会計で、買い物籠から一つずつ読み込んで精算するとき、あれでレジの人は客が今晩どんな料理で何を食べるのか、おおよそわかってしまうだろうけど、でも別にそんなこと興味も関心もなくて、わかってもただちに忘れてしまうだろうけ…

アンナの出会い

ザ・シネマメンバーズで、シャンタル・アケルマン「アンナの出会い」(1978年)を観る。ひたすら素晴らしい。 本作の説話的な部分というか、主人公をあらわす要素は、すでに「私、あなた、彼、彼女」(1974年)にほぼ全て揃っていたとも言える。また主演オーロ…

調理器具

妻のメガネのレンズを買い替えた。出来上がりは来週。さらに小さめの鍋を、ひとつ買った。必要なのだそうだ。僕は、二号徳利を買った、熱燗ならこのサイズがいいと、かねがね思っていた。 お店に並んでいる調理器具や食器を眺めていると、たぶんもっと自宅に…

金曜夜

雪ではなく雨だったけど、寒すぎて駅から家まではバスに乗ろうと思うが、この寒さと悪天候のせいか、バスの混み具合が尋常じゃなかった。なんとか無理矢理乗り込んで、目的の停留所で無理矢理降りて、コンビニにも寄らずにそのまま帰宅したので、そしたら家…

突撃

アイヒマンとか、士官とか、警察官とか、官僚とか、下級官吏とか、誰でもいいけど、当時のドイツにおいて、彼らもおそらくは、勤務日はそれなりにうんざりした気分で朝を迎え、凍えるような外を歩き出して、電車だか自動車だかで出勤し、職場で勤務し、その…

剽窃

自分が以前このブログに書いたことを、あたかも今思いついた話題のようにして、人に喋ってることがある。たとえば「暑さは身体がつらいけど、寒さは心がつらい」とか、「蝋梅の香りは鼻を近づけてもわからなくて、傍を通り掛かったときにわかる」とか、「寒…

不忍池はいま、枯れた蓮が水面を覆っていて、見渡す限りどこまでも、枯れ朽ちた薄茶色の蓮の残骸ばかりが冬の空に向き合っている。これは見ようによっては、おびただしい数の死骸がぎっしりと隙間なく横たわっている光景にも見えるし、膨大なゴミ集積場の風…

内実

1月27日の「郡司ペギオ幸夫×保坂和志イベント&オンライン配信」をふたたび聴いた。やはり郡司ペギオ幸夫の「ハレルヤ」についての言及が素晴らし過ぎて、聴いていて思わず泣いてしまう。以下は自分なりに備忘で書き留めたもの(トークの書き起こしではない)…

エゴン・シーレ

東京都美術館でエゴン・シーレ展を観る。約百年前のウィーンがどんな場所だったのか、どんな個人がどんな意識下で生きていた時代だったのだろうか。ウィーンに限らず、過去のことはわからないし、わかると思ってもわかった気になってるだけだ。 作品は時空を…

ションベン・ライダー

録画で相米慎二「ションベン・ライダー」(1983年)を観る。中学生、そしてヤクザ、あと教師。映画の中だけ、まるで夢のように、彼らが縦横無尽に動き回っている。しかしこれは映画だから、動き回っているのは登場人物だけではなくて、登場人物たちを捉えてい…

解けない問題を解く

微分方程式は解けない。微分方程式が求める解は関数だが、それは決して解くことができない。(解けないとはつまり、微分に対して積分することができないから…ということらしい。)我々は、微分方程式を作り出すことはできる。しかし、微分方程式を解くことは…

すべてを顕在的な部品のみで説明、解釈するこではできない。かならず理念、潜在的な力は必要とされる。そうでなければ「説明がつかない」。いや、説明を付けるという行為そのものの、不可能性でもある。 円周率πは、無限級数の極限値として定義される実数で…

不成立

微分とは、おそらく1=0.9999…のようなものである。しかし、1=0.9999…、この式は絶対に成立しない。にも関わらず…。 次のいささか奇怪な等式を例にとろう。 0.999…=1 留保抜きで断じておく。この等式は無意味である。0.999に続けて記号「…」を書き加えても、…