狩人


 ものすごい晴天。空気が太陽熱と地熱の板ばさみになって細かく振動している。木々の葉の緑がところどころ容量を超えてしまい溢れ出している。ポプラの木に生い茂った葉が、一枚一枚太陽光を反射していて、真昼だというのに嘘みたいにキラキラと作り物めいて光っている。北千住の東京芸術センターへ向かう。こんなにいい天気なのに、このあと暗室内で三時間も映画を観るなんて・・・と思う。アンゲロプロス「狩人」が始まる。観終わって、午後四時。身体が痛い、ぐったり、呆然。建物を出ると空はまだ充分に明るい。駅までの道を歩きながら、しばらくの間は、見ている景色や行き交う人々など目に入り耳に聴こえるものすべてが、さっきまで見ていた映画と見分けがつかない。そして、いまいる現実の時間の流れ方に異様な歪みというか違和感を感じる。これぞまさに時差ボケというやつではないか。さっきまで体験していた時間の流れ方、つまり認識や把握の処理スピード、神経の周期的反射速度、呼吸や心臓の鼓動の周期などが、映画館を出て一挙に別のリズムに全更新されてしまったことの、一時的小パニック状態に近い。映画としてその内容を色々言うようなものではなく、ただものすごかった、という感想しか出てこない。いや、大体同じように、あるシチュエーションから別のシチュエーションまでの緊迫感溢れる一連の流れを、ただ息を詰めて見つめ続けるということで、ある意味それだけが何度か同じように繰り返されるだけ、とも言えて、その単調さが三時間繰り返される事で身体への負荷がものすごくて、見終わったあとぐったりしているだけなのかもしれないが、しかしそれでもだからそれは凄くないと言うわけにもいかない。こんな映画は、さすがに他にない、世界中探してもこれだけだろうと思う。

 「狩人」は「旅芸人の記録」の次の作品だとのこと。僕が今まで観たことのあるアンゲロプロスの作品は「旅芸人の記録」「こうのとり、たちずさんで」「ユリシーズの瞳」「永遠と一日」「エレニの旅」で、それだけでイメージしていたアンゲロプロスの作品の印象よりも「狩人」は、何か観ている人に対して刺々しい感じというか、作り手の気合というか肩に力が入ってる感じというか、ケレン味もあるような、そんな少しギラギラした感じをおぼえた。